有機肥料は化学肥料の替わりになるのか?

かなり騒がれていますね、化学肥料の価格高騰。高すぎて困るとか、手に入るかどうか分からなくて不安とか、コストが合わないから離農しようとか、いろんな悲鳴が飛び交っています。

この化学肥料の高騰を乗り切るための手立てはいくつかあります。一つじゃなく、いくつもあります。自分ができることを選ぶことができます。その道すじは農林水産省がホームページで示していますが、その中の一つとして

堆肥や緑肥を使った土づくりをすることで化学肥料の削減につながる

ことを挙げています。まあなんとなく分かりますよね。有機質な肥料に代替しよう、なんてこと誰でも思いつきそうですから。

ただし、堆肥や緑肥は推奨しているものの、有機肥料といった表現は使っていません。ふつうに考えたら化学肥料の代わりに有機肥料を使うように促してもよさそうなものですが、そうなっていません。なぜでしょうか?

農林水産省が化学肥料の代替として勧めているいるのは
混合堆肥複合肥料
というもの。たんに有機肥料へ移行しましょうなどとは言っていないんですね。

混合堆肥複合肥料は化学肥料に堆肥などの有機質肥料を混ぜ込んだもので、あくまでも化学肥料の使い方ができることをベースに作られています。散布する農機具を変えなくてもそのまま使える肥料への移行、化学肥料のようにスムーズに効いてくれる肥料への移行、いきなりの施肥革命は勧めてません。

とはいえ、みどりの食料システム戦略でも化学肥料30%削減を目標にしていますし、有機農業取組面積25%を掲げてますから、長期的にみても有機肥料を活用していくことは持続可能な農業のために欠かせないのだろうと思います。

ですが正直に言えば現状は厳しい。有機農業者として長く使ってきた経験をふまえて、声を大にして言いたい。

有機肥料の扱いは難しいです。

化学肥料に比べると欠点が多すぎて扱いにくいです。

だから使わないで、という話ではありません。むしろ使ってほしいです。みどりの食料システム戦略が掲げられていなくても、地域資源の有効活用は素晴らしいことですし、日本全国には使われていない有機質肥料があふれています。化学肥料をすべて有機肥料に代替してもじゅうぶんに賄えるという試算もありますからね。積極的に有機肥料を使ったらいいと思ってます。

使える有機肥料があふれていて、時流が化学肥料から有機肥料へ少しだけ傾きつつある。そんな状況でも有機肥料をプッシュできないのは、手軽に使えるだけの条件が整っていないからに他なりません。扱いの難しさが普及にブレーキをかけているんです。

いや、でも、、、化学肥料がとにかく高いんだよ。なんとかしないとヤバいんだよ。扱いにくくても有機肥料を使ってみようと思うんだが。。。そんな方が有機肥料を使うにはどうしたらいいでしょうか?

まずは有機肥料を知ることからでしょう。特性やクセを理解する。どこがどう扱いにくいのか、それを知ることで自分なりの使い方が見つかるかもしれませんし、化学肥料に代替できる道が見つかるかもしれません。化学肥料高騰の今だからこそ、有機肥料のことを知ってほしいと思います。

「堆肥」と「肥料」の違い

有機肥料が扱いにくい理由は、大きく4つあります。
と、その前に「堆肥」と「肥料」の違いをざっくり書いておくと、
堆肥・・・土づくりが目的
肥料・・・栄養投与が目的

明確な線引きができるわけじゃないですが、C/N比が10以下のものは肥料で10より大きいものは堆肥だと考えたら分かりやすいかもしれません。C/N比が低いとすぐに分解されて養分放出されますし、高いとなかなか分解しないので土壌改良効果が長く続きます。有機物を土に入れたときの目的が堆肥と肥料では違うわけです。

農林水産省が勧める化学肥料代替案で「堆肥」があるのに「有機肥料」がないのは、堆肥は化学肥料と併用して使えるからでしょう。
○ 化学肥料+堆肥
✕ 化学肥料+有機肥料
ということです。

さて前置きが長くなりましたが、有機肥料が扱いにくい理由について書いていきます。ここでは鶏ふんをイメージしてもらうと分かりやすいかと思います。

有機肥料が扱いにくい理由その1 成分のばらつきがある

肥料袋にはたいてい成分表が書いてあります。窒素・リン酸・加里それぞれ何%含まれているか、C/N比や水分量なども記載されています。
この数字を見て、何袋分を撒こうか決めますよね。チッソを●kg入れたいから▲%なら■袋だな、みたいに。

この数値がけっこう当てにならないんですね、有機肥料の場合。えっ?そんなわけないでしょ!成分がちゃんと書かれてるんだから間違いないでしょ!と思いますか?

もちろん分析した結果を載せてますよ。そこに嘘はないです。でも、その分析はいつ行われたのか分かりません。

有機物は環境によって成分が変わります。たとえば生乳の成分は乳牛の品種、個体、飼料、地域、季節、泌乳期などにより変動があります。脂肪分が夏よりも冬のほうが高いのはパック牛乳の表示で見たことがありますよね。
それと同じように、家畜糞もそのときの環境条件によって成分が変わることはなんとなく理解できるのではないでしょうか。

肥料袋に記載する成分を毎回調べたりしません。それが悪いということではなく、手間もコストもかかる検査をそう何度もやってられませんからね。鶏舎が変わるとか、季節の変わり目に計測するくらいはありそうですが、そう頻繁にはやらないでしょうね。

施肥設計をびっちりやりたい農家はこのブレが許せないかもしれません。チッソは前回13kg/10aだったが今回は14kg/10aにしたい。そのように厳密に管理しているところはまず使えないと思います。

有機肥料が扱いにくい理由その2 労働負荷がふえる

化学肥料と比べると含まれる肥料成分が薄いです。例えば窒素肥料としてよく使われる尿素肥料は成分の46%が窒素です。14-14-14などと書かれた化成肥料では窒素・リン酸・カリがそれぞれ14%ずつ入っています。

画像:タキイ種苗  山田式家庭菜園教室 より

一方の有機肥料は、わりと成分が化学肥料に近いと言われる鶏糞でもチッソ5%くらいです(これでも濃い目)。これには水分が含まれているので、そのぶんを差し引いて計算する必要もあります。

成分が薄いということは、散布量が増えます。効かせたい分量の肥料を投入するための労力が増えてしまうわけです。水分が80%以上のオカラを選んだ日にゃ、ほとんど水を撒いているようなものです。これはしんどい。

有機肥料が扱いにくい理由その3 肥効が読めない

成分が少しくらいばらついてもいい。散布量が増えるのも機械でやるから大丈夫。そんな懐の深い方でも困るのが「肥効が読みにくい」点でしょう。肥効とは土に入れた有機肥料が効いてくるタイミングと量のこと。

肥効を気にするのは特に窒素です。植物の生育に大きな影響があるので、吸わせたいときに土の中に吸える状態であってほしい。化学肥料だとある程度それができます。

化学肥料は、植物の根が吸える無機態のカタチになっているので、水に溶けるとすぐに効きます。サプリメントみたいなものですね。いつ、どれくらいの量の肥料を植物に吸わせたいのかをコントロールしやすいんです。

一方、有機肥料は植物の根が吸いにくい有機態のカタチです。まず微生物に分解してもらって無機態に変わらないと根は吸うことができません。

ここで問題になってくるのは土に入れた有機肥料がいつどんなタイミングで効いてくるのかコントロールしにくいこと。有機物の分解は温度と微生物量に左右されます。地温が高ければ微生物の活動が活発になり有機物の分解が進むし、地温が低いとなかなか分解が進まない。微生物がそもそも少ない土壌だと分解しにくいのは言わずもがなです。

4月と11月に同じ量の有機肥料を入れても、効き方はまったく違います。11月は寒いので4月に入れた量の3倍を入れないと同じ肥効が得られないなんてふつうにあります。そんなの計算できますか?

ある程度の予測はできるかもしれませんが、地温や微生物活性もパラメータのひとつとしてデータ収集し、AIを使って施肥管理するくらいのシステムがないと厳密な管理は難しそうです。

有機肥料が扱いにくい理由その4 施肥設計しにくい

成分表示が正確じゃない、肥効が読みにくい。これだけでも扱いにくいことが分かっていただけたかと思いますが、そんな有機肥料で施肥設計すると別の問題が浮上してきます。

それは不純物がいろいろ含まれている点。化学肥料にも当然ですが不純物が含まれていて、窒素46%の尿素なら残り54%は別の物質になります。これって何が含まれているのかは見えるんですよ。

画像:役に立つ薬の情報~専門薬学より

<尿素>
分子式: CO(NH2)2
元素記号: C=炭素、O=酸素、N=窒素、H=水素
それぞれの分子量から計算していくと尿素の約46%が窒素になります。それ以外の54%は、炭素(C)、酸素(O)、水素(H)です。

有機肥料はこんなに単純じゃないです。いろいろ混ざってます。いや、いいんですよ。混ざってても。問題なのは肥料袋の成分表にちゃんと載ってないことです。

例えば鶏ふん。窒素・リン酸・カリは明記されてます。でもカルシウムもかなり含まれているはずなのに、そこは隠ぺいされてます。卵用鶏の鶏糞だと10%以上がカルシウムだったりしますからね、これが数値として見えないのは怖すぎます。

こういうカルシウム満載の鶏ふんを知らずに使っていると、いつの間にかアルカリ性が強くカルシウム過剰な土壌に仕上がります。有機農業あるあるです。
ほかにも「実は微量要素が含まれてました〜」な有機肥料がけっこうあって、きっちり施肥設計したい農家には有機肥料をオススメできません。

まとめ

化学肥料に慣れた農家さんほど扱いに苦労するのが有機肥料です。とくに厳密な施肥管理をしている産地ほど扱いにくいと思います。
化学肥料の高騰を受けて、堆肥も含め有機肥料の導入を検討している人もいるでしょうけど、想像以上に難しいことを知っておくべきではないでしょうか。

とはいえ、使うなという話ではありません。しっかりと調べたうえで効果が見込めると思えるならぜひ使ってください。そして、

違いを理解して使う

ことの大切さを、自身の知見とともに広げていってほしいと思います。

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