なぜ?を考える ~育苗をする意味~

農業をやろうと考えて勉強しているとき。
農業研修を受けているとき。
実際に就農して自分で耕作を始めたとき。
どんなとき、どんな状況でもいいんですが物事の根本を知っているということは非常に重要です。

なぜ耕すのか。
なぜ畝を立てるのか。
なぜ育苗をするのか。
なぜ支柱を立てて誘引するのか。
なぜこのタイミングで収穫なのか。

すべての行動には意味があります。
なにげなくやっていることでも、ひとつひとつにはちゃんと意味があります。
それを理解しないまま、研修先の農家がやっていたからという理由で真似しているだけでは、自分の栽培技術レベルが向上していくことはありません。
研修先農家から学んだことを、自分が置かれている環境に適用し応用させていくことができません。
なぜ、を考えること。
研修中のみならず、新規就農してスタートしてからも常に頭に入れておかなければならない大切なことです。
 

なぜ育苗をするのか

例えば今回は育苗(いくびょう)について考えてみます。
育苗とは、名前のとおり苗を育てることです。
栽培に関する参考書や雑誌をみていると、当たり前のように育苗することが当然のように書かれています。
トマトはこういう苗がいいんです。
ひょろひょろとしてなくてがっちりしている、逆三角形の姿をしているのが良い苗だ。
●月にタネを播いて、温度をこれくらいにして管理して、●月くらいになったら畑に定植します。
というようなことです。
でも、意外なことに。
トマトはなぜ畑に直接タネを播いてはいけないのか、なぜ苗を作らなければいけないのか、といったことについて詳しく書かれている書籍はほとんどありません。
農業者、書籍の執筆者にとっては知っていて当然だから書かないのか。
トマトは育苗して苗を畑に植えるのが常識だからなのか。
そのあたりの諸事情はわかりませんが、まったくの素人が農業をはじめようと思ったときには
なぜ育苗をする必要があるのか
という根本的な問いは非常に大切です。
それを知らないで育苗をしていると、やらなくていいことをやってしまったり間違ったことをやってしまったりしますよ。
逆に、なぜ育苗をするのかしっかりと理解していれば、既存の農業技術にとらわれない画期的なアイデアが生まれることもありますし、自分の農業経営にマッチした自分なりのやり方ができます。

 

では、なぜ育苗をするのか、について考えていきます。
なぜ育苗をするのかを考えるときに大切なことは、その目的はなにかということです。
どんな目的のために育苗をするのか、ということです。
これについておおざっぱに3つ挙げてみます。

1.その野菜本来の短い旬を活かすため
2.生育初期の虫害を回避するため、厳しい気候環境を避けるため
3.圃場の有効利用、回転率上昇のため

ここで詳しくは書きませんがひとくちに育苗といっても、その目的は様々です。
春野菜を育苗するのと、夏野菜を育苗するのでは、その目的は違います。
夏野菜と秋冬野菜についても、育苗する目的は違うんです。

 

トマトの苗を育てる理由

たとえば夏野菜のトマトは、露地栽培もしくは雨よけ栽培をするときには2月とか3月の寒い時期にタネを播いて苗を育てます。
2月タネを播く → 5月苗を植える → 7月~9月収穫する
といった作型が一般的です。
トマト作型1
なぜか。
原産地がアンデスの高地ということもあり、夏の避暑地になるような高原が日本でいえばトマトにとっての快適な気候環境なので、トマトにとってもっとも生育が進むのは7月~9月の夏の期間です。
その期間に、収穫をしたい。
この思惑がスタート地点にあるから、
2月タネを播く → 5月苗を植える → 7月~9月収穫する
といった作型が一般的なんです。
じゃあここで。
なぜ5月に苗を植えるのか、2月にタネを播くのか、を考えていきます。
7月~9月に収穫をするためにはそれより前に葉を茂らせ実を付けさせなければならない。
でも寒さに弱いトマトは4月に植えると霜で枯れてしまうかもしれない。
だから5月に苗を植えて育てていく。
苗の時点で実を付けていると樹が弱ってしまうので、苗は実を付ける直前つまり一つ目の花を咲かせた状態が最も大きい苗になる。
これが5月に用意しなければいけない苗のサイズになります。
トマト苗
で、5月に用意すべき苗のサイズが決まったら、タネを播いて育てていく期間が決まり、それが3ヶ月間だとしたら逆算して2月タネ播きになるわけです。
つまり。
トマトの場合は、タネを播きたい時期にはまだ寒すぎて、畑に直接タネを播くことができない。
だから植え付けができる5月までに苗を作っておく。
そのために2月にタネを播く。
そうすることで7月~9月の適期を収穫期間として有効に活用できる。
これが育苗をする目的になります。

 

育苗の意味を理解して、応用する

7月~9月の適期を収穫期間として有効に活用するために育苗をする。
ということが分かっていれば。
もしも。
自分の経営計画として、トマトの収穫期間はもうすこし短くてもいいと割り切れるなら。
育苗をなくすことだって可能なんです。
トマト作型2

霜にやられない時期になったら畑に直接タネを播く。
あとは草管理だけしていれば、勝手に育って8月くらいには収穫できるようになります。
収穫期間が短いので、支柱を立てたり誘引したり、芽かきをしたり、追肥したりといった栽培管理をせずに植えっぱなしの放任栽培でも大丈夫かもしれません。
育苗にかかる手間や時間がなくなるので、他の野菜を栽培することに集中できるようになるかもしれません。
なぜトマトは育苗するのか、をちゃんと理解できていれば、教わってこなかった栽培方法や書籍で書かれていないような斬新な栽培を手掛けることができるようになる可能性を持てるんです。
自分の経営スタイルにぴったり合った栽培を選択することができるんです。


育苗するのが一般的だから。
研修先の農家で教わったから。
じゃなくて、なぜ育苗をするのか、なぜ育苗が必要なのかを考える。
ということが大切です。

なぜ、がわかると習ってないことに踏み込めます。
応用が効くようになります。
自分が置かれている環境のなかで工夫することができます。

 

今回は、育苗をとりあげてなぜ?を考えてみました。
ほかのなぜについても色々とご自身で考えてみてはいかがでしょうか。

 

 

多品目栽培でこんな間違いをしていませんか?

たくさんの種類の野菜を同時に育てる、かんたんに表現すれば家庭菜園を大きくしたような農業。

このような、いわゆる多品目栽培は、有機農業ではよくやられている方法なのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。
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このときすでに、じつは大きな間違いをしています。

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