実家が農家で手広く大規模農業をやっていて、それを引き継ぐ形で新規就農する。
そういった恵まれた環境でスタートできる方もいらっしゃるとは思いますが、そこまで大規模じゃなくてもまあまあ平均的な農家に生まれて、その家業を継ぐというパターンは多いのではないでしょうか。
そして非農家出身者。
実家が農家ではないけど農家になりたいといって新規参入する人も少ないですが存在します。
というように、多くの新規就農者は最初から大きく始められるわけではなく、まずは小さな面積からスタートしています。
小さくスタートしつつ経営力がある農家はどんどん規模を大きくしていくでしょうし、小さな農家としてずっと家族経営のよさを堪能していく場合もあります。
農業法人化していく、生活が苦しくて兼業農家になる、行き詰って離農する。
長く続けていると成長する農家もあれば衰退していく農家もあって様々ですが、一部の例外を除いてほとんど
最初は小さくスタートする
という共通点を持っています。
小さいままで終わるのか、大きく成長していけるのか。
農家によって栄枯盛衰があるのはどこに原因があるのでしょうか。
選んだ作物でしょうか、栽培技術の差でしょうか、地の利でしょうか。
それとも営業力や経営力でしょうか。
その答えはおそらくひとつではありません。
農家によって違います。
今と昔では時代が違って単純な比較もできません。
今回は。
小さな農家が今の時代を生き抜いていくにはどのような意識が必要なのか、どのようなことに気をつけていく必要があるのかについて書いていきます。
小さな農家には小さいなりの戦い方があり、それは大規模農家には真似できない戦略であることを知ってほしいと思います。
目次
大規模農業が小規模農業を淘汰し席巻していく
大きければ強いと思われがちですが意外にそうじゃないものがたくさんあります。
このことについては別の記事で詳しく書いていて
簡単に言ってしまえば、
自分の強みと弱みを知っているかどうか、相手の強みと弱みを知っているかどうか、戦いかたを知っているかどうか。
体格差ではなく戦い方が生き残れるかどうかのカギになる。
という話です。
今回は、具体的な戦い方を書いていきます。
世の中にある大きな流れを見ているとひとつの傾向があることに気づかされます。
郊外に大手量販店ができたことによって衰退の一途をたどってしまった駅前通り商店街。
コンビニエンスストアが広がっていったことにより酒屋が吸収、淘汰されてしまった流れ。
全国どこに行っても同じようなフードチェーン店が立ち並ぶようになった無個性化。
同じ商品を扱っていて品揃えで勝負するしかない書店業界では小さな本屋が大規模書店に潰されていく。
大規模店が小規模店を食い潰してしまった例は山ほどあります。
小さな大名がひしめき合った群雄割拠の時代を経て、徳川家康が天下統一を果たしたように、小さなものがどんどん淘汰・吸収されながらひとつにまとまっていくのは歴史からも見て取れます。
最初は小さな勢力がたくさん存在しているなかから、すこしずつ大きな勢力が現れてきて、小さいものはどんどん淘汰されていく。
この流れは農業にも当てはまるのでしょうか。
小さな農家は大規模化が進んでいくなかで淘汰されていくのでしょうか。
おそらく。
群雄割拠の時代から天下統一に向かう流れは避けられません。
昭和30年代には1400万人ほどいた農業従事者が平成27年には209万人に大きく減少していますが、これだけ農業者が減っているなかで日本国民の食を支えてこられたのは、生産力のある大規模農家が増えてきているからです。
この図からわかるように、農家全体のうち販売金額500万円以上の15%の農家が、販売金額全体の75%を生みだしています。
別の見方をすれば、販売金額500万円未満の小さな農家は販売金額全体の25%にすぎない。
つまり厳しい表現をすると、
小さな農家は日本の食料問題にあまり関与してない
消えても影響が少ないということにもなりかねません。
この流れは今後もっと加速していくことが予想されます。
強い農家はもっと強く、弱い農家は(高齢化もありますが)どんどん消えていく。
大規模農家はもっと大きく、小規模農家は生き残りがどんどん難しくなっていく。
そういう時代になっていくはずです。
小さいことをメリットにする
大規模だからこその強みはたくさんあります。
大きいからこそやれることはたくさんあります。
生産性を高めてコストを下げれば利益をさらに上げられますし、たとえ薄利多売になっても物量で勝負して利益を上げることができます。
だから安さを売りにして営業をかけられるようになります。
広告宣伝費をかけて広く認知してもらうこともできます。
これにより、商品の価格で勝負できない小さな農家は潰れていきます。
同じような商品を大規模農家と同じようにつくっていれば生産コストが割高になるぶん利益が小さくなりますから当然です。
駅前商店街が郊外に出来た大規模量販店によって客を奪われ、ついにはシャッター通りになってしまったように、大規模農家によって小さな農家が淘汰されてしまう。
そういう流れはあると思います。
でも。
淘汰され尽くすわけじゃない。
シャッター通りの中にも生き残っている店はあります。
シャッター通りにならなかった商店街もあります。
小さな農家が淘汰されてしまうのは、それは農家自身の経営能力の問題であって小さいから潰れるわけではありません。
別の言い方をすると。
小さい農家としての戦い方を知らなかったから、小さいからこそのメリットを知らなかったから淘汰されてしまうんです。
小さくスタートする新規就農者の戦い方 ニッチ戦略
じゃあ小さな農家は何をしなければならないのか。
これから具体的な戦い方を挙げていきますが、基本的な考え方としては
大手が出来ないことをやる
のが大前提になります。
大規模農業の強みとはなにかを考え、大規模農業に出来ないことはなにか考える。
なるべく競合しないように、同じ道を走らないように、柔らかく言えば
共存するための居場所を探す
という感じでしょうか。
まともに戦って勝てない相手と殴り合いをする必要なんてありません。
戦わないことが最上の策です。
実際に小さな農家としてやれることは 大きく分けて3つあります。
市場の絞り込み、顧客の絞り込み、商品の差別化です。
★市場の絞り込み ニッチ戦略
基本的に、大規模農業をするということは大量生産をすることです。
大量生産すれば大量に販売しなければならないので、当たり前なんですがそれを買ってくれる人が大量にいなければだめだということになります。
ということは大規模で農業する場合、世の中の大多数が欲しいと思っている品質や価格で商品を売らなければ経営として成り立ちません。
小規模農家がこの市場、つまり大多数が受け入れてくれる品質や価格で勝負してしまうと大規模農家とガチで戦うことになるので、価格競争に負けて離農の道を辿ってしまう可能性が高くなります。
あえてストレートに表現しますが、小規模農家は価格で勝負してはいけません。
いわゆる安売り競争になりがちなマーケットに販路を求めてはダメだということです。
低価格という切り口。
世の中の市場はそのような大きなマーケットだけはありません。
市場のニーズは多様化しています。
とにかく最低限必要な食料を増産、確保しなければならなかった戦後高度経済成長時とは違い、食に満たされた現代ではいろんなニーズがあふれています。
洋食系の飲食店が欲しがる西洋野菜。
和食系飲食店や地産地消を大切にする人たちが熱望する地域の伝統野菜。
核家族化が進んでカット野菜が売れやすくなっている流れから、サイズが小さいミニ野菜の需要もあります。
健康ブームとからめてパクチー需要が伸びてきていたり。
贈答用として食用ホオズキが高価格で取引されていたり。
野菜だけをみてもいろいろあります。
そういった大規模農業では市場が小さすぎて手を出しづらいところへあえて突っ込んでいくことで、大手と戦わずに営農していくことができるんです。
ニッチな市場を探して、椅子が空いていると思えばそこに座っていくのが、ここでいう
市場を絞りこむ
ということです。
★顧客の絞り込み
とにかく大規模農業と戦わないことが大前提なので、顧客の面でも競合しないことが重要です。
スーパーで安売りしている農産物が大好き、とにかく安いものが欲しいという消費者が世の中の大多数ですが、そういう顧客を相手にすることは小さな農家が商売相手とするにはちょっと厳しい。
安さの提示が顧客満足になるので、価格を下げるためにどうしても効率化を求めて大規模農業になってしまうからです。
最終的にはそのような大規模経営を目指してもいいとは思いますが、新規就農したばかりの小さな農家が安さの土俵に立つことはできるだけ避けたほうがいいので、安さを第一に求めていない顧客を探すことになります。
分かりやすい例でいうと、
安心や安全を求めている人たち。
こういった人たちへは(安いことも重要ですが)安全性をアピールした無農薬栽培が有効です。
とにかく美味しいものが欲しいという人たちもいます。
味にうるさいレストランのシェフなどは、美味しい料理をつくるために食材からこだわります。
そういったシェフの舌に合うものは安売りスーパーには並んでいません。
八百屋にも小売店にも食材にこだわっているところはあります。
安売り第一ではなくブランド重視、顔が見える関係を築きたい業者は確実に存在します。
大事なことは、農家自身が誰に対して自分の商品を売っていきたいのか明確にすること。
目を閉じればその人の顔が浮かんでくるくらい明確にすることです。
小さな子どもに食べさせたいのか、高齢者世帯に届けたいのか。
アトピーなどの病気に苦しむ人に食べてほしいのか。
ブランド価値を求めるセレブを相手にするのか。
顧客を絞り込んでそこに向けてドンピシャの商品を売っていくことで、 大衆受けする大規模農家の商品との違いをはっきりさせて競合を避けることができます。
★商品での差別化
農産物の価値は安さだけではありません。
もちろん誰だって同じ商品なら安いほうがうれしいですが、農産物は工業製品とは違って栽培環境や品種、栽培者のこだわりなどにより同じ商品にはなりません。
そして。
重要なのは安さだけが商品を選ぶ要素ではないという点です。
見た目や味などの品質
品種による商品のバリエーション
使用資材や栽培環境による安全性
流通方法や経路の違いによる鮮度
贈答用や加工用など用途の違い
多様化した消費者のニーズに合わせて商品も多様化が求められています。
大規模生産では割に合わないニッチな市場に向けてニッチな商品を作っていく。
大規模農家にはできないことを、商品の差別化という切り口でも小規模農家はやっていくべきだと思います。
このように、
小さな農家には小さいからこその戦い方があります。
小さくても効率化すれば勝てる、とか単純なものではありません。
ポイントは小さくなければできないことをやっていくという点。
さらにいうと、小さいからこその強みはまだまだたくさんあります。
個を売る(生産者のキャラクター、こだわり、親近感)、重箱の隅をつつく。
小回りを利かせてどんどん新しいことをやっていく。
守らないでとにかく攻める、スピード勝負、ゲリラ戦を展開する。
といった感じでしょうか。
農家の重要スキル 情報発信
これらのニッチ戦略を実現するために必ず必要になってくるのは、農家自身の情報発信力です。
市場を絞り込み、顧客を絞り込み、そして商品を絞り込んだその先には、自分の作ったものをどこに売ったらいいのかという問題があります。
絞りすぎているからゆえに、それを求める人が少なくなってしまうという問題です。
もちろん解決策はあって、それが情報発信力を持つことなんですが、農家が情報を発信する力を持っていることがそのままニッチ戦略を実現するための成否に大きく関わってきます。
情報発信するということは、自分自身を広く多くの人に知ってもらうということ。
それはつまり。
例えば1万人に自分のことを知ってもらうことができれば、ニッチでマニアックな自分の商品を欲しがっている1万分の一人を見つけることができるということです。
大規模企業のように広告費をドカーンとかけられない小さな農家にとって、広く認知してもらうための情報発信は難しいと思われるかもしれません。
でも今は、インターネットが発達してSNSが普及して、個人が情報発信しやすい時代になっています。
これを利用しない手はありません。
ホームページを持てとは言いません。
真面目なブログ記事を毎日書けとは言いません。
twitterやFacebookなどのSNSを使って、
私はここにいますよ
こんなこだわりを持って毎日の作業をしていますよ
こんなに素晴らしい商品を生み出していますよ
という情報を発信してください。
その内容は日記でも構いません。
とにかく知ってもらうことに重きを置く、情報発信して多くの人に知ってもらうことがなによりも重要だと思います。
とにかく。
小さな農家はニッチ戦略を組んで情報発信していく。
ニッチ戦略と情報発信。
この二つはセットだと思って間違いありません。
中途半端は生き残りにくい時代
日本の農業者の平均年齢は65歳以上。
あと10年もすれば、平均を押し上げている高齢農業者の多くは退場していきます。
そうなれば農業者人口は一気に縮小し、大規模農家はさらに大規模に、小規模農家は個性を出さなければ生き残れない。
群雄割拠から天下統一にさらに近づいていく、そんな時代になっていきます。
中途半端は生き残りにくい時代です。
これからの時代は。
スケールメリットを生かして大きな市場をターゲットにするか。
スモールメリットを生かして小さな市場をターゲットにするか。
どちらかでしょう。
ここを誤るととんでもないことになりますから要注意です。
大規模農家が農産物に対して強いこだわりを追究すれば、それを欲しい買い手が減って量を売りさばけなくなるし。
小規模農家がどこにでも売っている農産物をつくって薄利多売路線をとれば、価格競争に巻きこまれて敗れるのは目に見えています。
小さいから弱いわけじゃなくて、なにも考えずにいたら大きな農家に飲み込まれるという話です。
自分の立ち位置をしっかり把握して、規模に見合った戦略が必要。
小さいからこその強みや武器を見つけられたら、それは大手には真似できないので潰されることもなくなりますよ。
よほどのことがなければ新規就農者は小さいところからスタートします。
まずは小さな農家の戦い方を知るところから始めてみてはいかがでしょうか。
多品目栽培でこんな間違いをしていませんか?
たくさんの種類の野菜を同時に育てる、かんたんに表現すれば家庭菜園を大きくしたような農業。
このような、いわゆる多品目栽培は、有機農業ではよくやられている方法なのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。
そして、多くの農家がやってるんだから自分にもできるだろうと、独学で、農家研修で、栽培の基本を学んでから実際に自分でやってみるのですが・・・
このときすでに、じつは大きな間違いをしています。
有機農業が慣行農業の5倍も儲かるって!?
有機農業者は、あまりお金の話をしたがりません。
「収入に魅力を感じて農業をしてるんじゃない。わずらわしい人間関係から解放されて、健康的な暮らしをしたいから有機農業の道を選んだんだ。」
と、収入は二の次だと言います。
だからこそ見えなくなっていた真実。それは、
有機農業はちゃんと稼げる
ということ。家族を養っていくことくらいは簡単に実現できます。しかも、栽培がうまいとかヘタとか関係ありません。誰でも実現できるものです。
ただし、条件があります。
それは・・・