小さな農家には小さいなりの戦い方がある 弱者の戦略

ワタミやイオン、セブンイレブンなどの大手企業が農業に参入する。
といった農業への大きな入口がある一方で、新規就農者のほとんどは最初は小さく始めています。
個人で農業をやろうとしている人の中に、企業並みの資金力がある人はそんなにいませんから当然ですよね。
たとえ将来的に大きく規模拡大していく経営手腕があったとしても、初期の弱小農家時代から利益を上げていかなければ拡大する前に離農を余儀なくされてしまいます。
誰でも最初は小さいところからスタートするんです。
今回は。
小さいからこその戦いかたについて。
小さくても大きいものに渡りあっていくための方法について。
「大は小を兼ねる」ではなく「小さくとも針は呑まれぬ」という話になります。

 

大きいものが勝つという迷信

「大は小を兼ねる」
大きいものは小さいものの働きを兼ねるが、小さいものは大きいものの働きは兼ねられない。

このことわざを素直に読めば、大きいものこそ強くて小さいものは大きいものに敵わないことになってしまいます。
もちろんそういう場面は多くあります。
小さいよりも大きいほうが出来ることは多いでしょうし、大きさを活かして勝負に勝つことができます。
大きいからこそ出来ることがあるのは事実でしょう。
でも。
小さいからこそ出来ることもあります。
これは言い換えると大きいと出来ないことがある、ということ。

大きいからこその強みがあり、小さいからこその強みもあります。
それぞれの強みを活かさなければ、大小にかかわらず潰れていくものです。

たとえば。
相撲の世界では、必ずしも大きな力士が勝てるわけではありません。
有名なところで言うと舞の海のような小兵力士でも、大きな相手に勝てることがあります。
もちろん体格差が勝負に与える影響は計り知れないと思いますが、じゃあ超巨漢の小錦が負けなかったかといえばそんなことはありませんし、時代を代表する横綱は必ずしも重量級だったかといえばそんなことはありません。

 舞の海

舞の海があれだけの小さな体で小結にまで上り詰めたのはなぜか。
ふつうに正面からぶつかれば、100kgにも満たない身体では押し負けて寄りきられるのがオチです。
彼は。
戦い方を知っていた。
自分自身の立ち位置を知り、どのような戦い方をすれば小兵力士である自分が勝負で勝ち続けることができるのか。
それを知っていて実践していたからこそ、番付上位に名前を連ねることが出来たんです。

現役時代の舞の海は、「平成の牛若丸」「技のデパート」などと称されていました。
小さな身体では正面からぶつかっても勝ち目はない、だから技を磨いてそれを自分の武器として戦うしかないと考えて、土俵の中でいろいろな技を繰り出しました。
猫だまし、八艘飛び、三所攻め、くるくる舞の海など。
あまり見ることが出来ない技の数々を、次から次へと繰り出して観客を沸かせ、勝負に勝ってきたんです。

このような例はいくらでもあります。
スポーツの世界では分かりやすいですが、ビジネスの世界でも同じことが言えると思います。
株式上場するような大企業が必ずしも勝つというわけでもなく、駅前商店街に軒を連ねる小さな小さな商店がすべてつぶれるかというとそんなこともありません。
勝つには理由があり、負けるにも理由がある。
大きければ大きさをウリにした戦い方がある、小さいなら小さいからこそできる戦い方がある。
ただそれだけのこと。
駅前の小さな商店が、郊外にどーんと店をかまえる大型デパートと同じ安売り勝負をしていては価格競争に負けてつぶれていきます。
個人でやっている小さな飲食店が、全国チェーン展開している大手ファミリーレストランと同じようなメニューで同じような価格勝負すれば勝てるはずがありません。
大事なことは。

自分の強みと弱みを知っているかどうか、相手の強みと弱みを知っているかどうか、戦いかたを知っているかどうか。

体格差ではなく戦い方が生き残れるかどうかのカギになります。

 

武井壮

このことについて、余談ですが平成の百獣の王として知られる武井壮さんは面白い取り組みをされています。
彼は百獣の王になるべく日々身体を鍛えまくっていますが、その一環として
脳内シミュレーション
を実践しています。

地球上にいるありとあらゆる動物と戦って勝つためにはどうしたらいいのか、どういう戦い方をすれば負けないのかを、自分自身の能力を考慮しながら頭の中でシミュレーションしているんです。
たとえばライオン。
ライオンは、まともに正面から向かっていっても勝ち目はなさそうに思えます。
でもネコ科であるライオンは鼻が弱点。
向かってきたライオンに喉元をわざと狙わせて、噛みついてきたところへ腕を差し出して噛みつかせる。
そうすると目の前に弱点である鼻が来るので、そこへめがけて鍛えた拳で強烈なパンチを浴びせる!
これでライオンは逃げていく。
・・・だそうです。

まあ笑いの要素も含んでいるでしょうけど、この脳内シミュレーションから見えてくる武井壮さんのすごさは、
自分の強みを相手の弱みにぶつけていく
という戦略性だと思います。
圧倒的な身体能力を持つ相手(ライオン)に対して、弱点を探ったうえでそこに自分の強みである知略とパンチ力をぶつける。
まともにやっても勝てないなら、勝つにはどうしたらいいのかを徹底的に考える。
そういう姿勢を武井さんのシミュレーションから学ぶことができます。

 

小さな農家の生き残り戦略

これらの例をふまえて、小さな農家はどのように戦略を立てていけばいいのでしょうか。
農業へ新規参入してくる他業種大企業や大規模経営を進める農業法人に対して、ちょっと風が吹けば飛んでいってしまいそうな小さな農家はどのように戦っていけばいいのか。
大企業の弱みとは何か。
弱小農家の強みとは何か。
その答えは。
大きいからこその動きの鈍さ、小さいからこその俊敏さを利用した戦略であったり。
マスに対して売り込みをかけていく大手に対して、小さいからこそニッチを狙っていく戦略であったり。

おそらく道はいくつもあります。
具体的にいえば、個性を全面に出すことはひとつの答えでしょうか。
農家自身が前面に出て、こんな人がこんな想いでこんなこだわりをもって育てています。
ほかでは買えない世界で一つだけの商品をお届けしています。
のように、商品に付随するたくさんの価値やストーリーを押し出していくことは、多くの生産者や業者が関わっている大企業ではやりにくい戦略です。
そして。
ほとんどの人が興味を示さないような珍しい品種を使っていくことで、大衆受けする商品を提供しなければ経営が成り立たない大企業とは別路線を進んでいくことができます。
これはつまり。
ありきたりの言葉ですが、差別化をしていくということです。


安売り競争では大手には勝てません。
また。
品質で勝負する気概は大事ですが、その土俵はあまりにも強敵が多すぎます。
自分自身の強みとはなにか。

育てた農作物の品質なのか。
高い生産力によって実現できる商品の安さなのか。
こだわりぬいた安全性なのか。
栽培を追求した果てにたどりついた美味しさなのか。
誰からも愛される自身のキャラクターなのか。

なんでもいいんですが、小さいからこそゲリラ戦を展開するための武器が必要になります。
この局面であれば負けない、という戦術が必要になります。

これから新規就農しようとしている知識も経験も技術もない自分の武器は?
新規就農して間もない頃の若葉マーク農家の強みは?

まずは自分自身に向き合うところから始めてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

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