就農相談で行政に感じる温度差 有機農業はいまだ冷遇されている

平成18年(2006年)に有機農業推進法が施行されて以来、行政は環境保全型農業である有機農業を推進して広めていくよう方向性を定めています。
これはつまり。
環境への負荷が低い農業を推進していくことや、消費者に向けて有機農産物を入手しやすい環境を整備していくこと、有機農業を希望する新規就農者に対する支援をしていくことなど、有機農業に関すること全般において行政が動いていくということです。
でも。
実態はどうか。
これから農業を始めようと考えている人が市役所の農政課や農務課といった窓口に出向いて相談しにいったとき、職員は有機農業推進の立場をとっているのかというと必ずしもそうなっていないような印象を受けます。
それはなぜなのか。
昔から続いてきた有機農業の冷遇は今もあるのか。
今回はこのあたりについて触れていきます。

 

10年生存率10%の事実

国税庁のデータがもとになっている情報では、事業を新しく立ち上げた企業のうち
設立してから5年で15%の企業が生き残る
設立してから10年で6%の企業が生き残る
というデータがあります。
これを言い換えると
たった5年で85%の企業が廃業している。
たった10年で94%の企業が世の中から消えてなくなっている。

ということ。
この数字は一例であってデータの出所によって数字に差はありますが、法人であれば10年生存率は4割程度で個人事業なら1割程度というのがだいたいの数字になります。
製造業、飲食業といった産業ごとに生存率が異なることもあると思いますが、なんとも恐ろしい数字が現実を物語っています。

農業では、こせがれ農家のように事業を引き継いで新規開業するケースが非常に多いため、スタート条件がいいので廃業(離農)までの年数が長くなる傾向にあります。

親元就農こせがれ農家と非農家新規参入組との圧倒的な差

また。
専業でやってだめなら兼業で、という道があるため事業として成立しなくても農業に従事できることが廃業率を下げる要因にもなっています。

とはいえ。
100人が新規就農して100人が10年後にみんな健全に農業経営を存続しているなどあり得ないことですので、10年生存率が10%という絶望的な数字にならないまでも10年も経てばある程度は離農しているのが現実なんです。

ところが。
行政はこのような現実を無視していることが多い気がします。

100人が新規就農すれば、10年後にも100人すべてが健全に営農し続けている姿を想像しています。

それは農業を始めたいと思って行政に相談に行くとよく分かります。
必ず成功するんだったら農地を紹介してもいいよ、という空気。
あなたの経営計画ではうまくいかないよ、と経営を知らないのに勝手なアドバイス。
就農相談に来た若者に対して、私たちがまず農業参入への適性審査をしてあげましょう的な姿勢でフルイにかけようとするんです。
でも。
どんなビジネスでも10年続けられる事業者は少ないんだから、どんどん参入させて生き残り絶対数を増やすのは当然あるべき施策ではないでしょうか。
10年生存率10%というビジネスの世界をまったく知らないか、知っていてもあえて見ないようにしている、行政にはそんな空気が漂っているんです。

 

有機農業ではダメだという認識

就農相談

もちろん相談に行っても担当してくれる人によって対応は全く違いますし、個々の考え方に差があるのでビジネスの実態を知ったうえで現実的なアドバイスをしてくれる担当員もいらっしゃいます。
さらに。
地域で推奨している品目、部会があるような品目で就農するなら、行政は意外に何も言いません。
たとえば。
▲町ではトマトの生産が盛んで、生産者が集まってトマト部会を作り地域としてトマトの大産地にしようと動いている。
といった場合。
地域として推奨している作物、農協が力を入れて取り組んでいる品目であれば行政は安心して新規就農者を受け入れる傾向があります。

でも逆に。
有機農業をやりたいという就農希望者には風当たりが強いようです。
平成18年に施行された有機農業推進法によって、行政としても有機農業は推進していかなければならない立場になっているので、有機農業での就農希望者にも優しい対応が求められるのですが、話を聞くかぎりだと実際はまだまだ厳しいものがあるようですね。
昔ほどではありませんが。

ではなぜ風当たりが強いのかというと、それは有機農業の現実が悲惨だからでしょう。
まず有機農業では食べていけないというイメージがあります。
そして、たしかに成り立っていない農家が多い現実があります。
しっかりとした統計データはありませんし、優秀でがっつり稼ぐ有機農業者がいることも確かですが、小規模ながらアンケート調査(有機農業参入促進協議会)をとったデータから見えてくるのは

有機農業では食えていない

という現実です。

そんな有機農業への参入を許すわけにはいかない。
行政の対応が厳しいのは有機農業の現実を知っているからなのかもしれません。
食えていない業界にあえて進ませる必要はない、という親心なのかもしれません。
余計なお世話ですけど。

 

じゃあそもそも、有機農業ではない慣行農業だったらいいんでしょうか。
農業全体の99%以上を占める一般的な農業であれば、しっかりと食える農業者になれるんでしょうか。
こちらは農水省にデータがあるので調べてもらえればすぐに見つかると思いますが、時給に換算すると1000円前後なのが一般的な農業の水準になっています。

時間あたり農業所得統計3

サラリーマンではない自営業として時給が1000円なのは・・・正直きついです。
アルバイト並みの時給でアルバイトより不安定ですから。
農業ではよく後継者問題が取り上げられますが、それは単純に儲からないことが大きな要因でしょう。
こんな時給で働く気になれるのか、親が苦しそうに農業をやっているのを見て子どもがやりたいと思うのか。
後継者問題の根幹にあるのは、農業が魅力的に映らないという現実ではないでしょうか。
実際。
ちゃんと儲かっている産地ではしっかり後継者が育っているという話も聞きますから、稼げる仕事なのかどうかは重要な要素だと思います。


ということは。
有機農業では生計を立てられないからダメだという認識は間違っています。
優良な農協が先導している大産地を除いて、ほとんどすべての農業は勧められないことになります。
強力な産地を持たない地域、推奨品目がこれといってない地域の行政対応が

農業やるの?やめといたほうがいいんじゃない?

なのは当然の対応なのかもしれません。

 

そもそも有機農業はニッチな産業

基本的には有機農業だからという理由で門前払いされるケースが少なくありません。
農業全体が産業としてイマイチだから参入してくるな!という親切も理解できますが、それ以上に有機農業であることが大きな障壁になっている気がします。
慣行農業よりも食えない有機農業
だからでしょうね。

顧客ニーズ

でもよく考えてほしいのですが、有機農業は消費者のニーズに応えるために生まれた形態です。
安全なものを安心して食べたい、そんな希望を叶えるために育ってきた農業の形です。

慣行農業が大量生産、安定生産によって低価格、見た目、安定供給を提供しているなら、有機農業は安全追求、栽培追求によって安全、美味しさを提供している。

ただそれだけのことです。
多様なニーズに応えるための切り口のひとつとして有機農業があるんだから、
「小さな勢力だからダメ」「食えないんだからダメ」
と切り捨てるべきものではありません。
政治の世界に野党はいらないのか。
個人経営の豆腐屋はすべてつぶれたらいいのか。
チェーン店ではない、その町にしかないこだわり洋食屋は必要ないのか。

多様化したニーズに応えるために有機農業があるという認識を、行政にはもちろん新規参入しようとする方にも持ってほしいと思います。
だって就農相談に行ったときに
「慣行農業が大量生産、安定生産によって低価格、見た目、安定供給を提供しているなら、有機農業は安全追求、栽培追求によって安全、美味しさを提供している。ただそれだけのことです。多様なニーズに応えるための切り口のひとつとして有機農業があるんだから、どんな形で農業をやってもいいんじゃないでしょうか。」
と言えることは大きなプラスになりませんか?

 

行政との温度差をどのように解消するか

100%成功できる保証がなければ農業への参入は許さない。
という行政の意識なんて普通に考えればあり得ないんだから、普通の感覚を持った就農希望者との意識の共有はおそらく無理でしょう。
食えるか食えないかは別にして取りあえずやってみなさい、は行政から出ないと思っていたほうが気が楽です。

就農希望者としてやるべきことは。
この人なら大丈夫だろうと思ってもらえるように自分を見せていくしかありません。
どのような理念、志で。
どんなリサーチ(市場調査、顧客ニーズなど)をして。
どんな経営戦略があるのか。
実際の経営計画は。

しっかりとした事業計画を携えて就農相談にいけば、きっと有機農業であっても納得してもらえるのではないでしょうか。
この人だったら間違いなく成功するだろう、農業でしっかりと稼いでくれるだろうと思わせるような印象を与えることが、おそらく就農相談をスムーズに進めるための近道ではないでしょうか。


 

 

 

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