これからの農家に求められるのは総合力

 

世のなかの流れを見れば安心・安全が重要なキーワードになっていることはみなさん御承知のとおり。
食に対する不安が大きくなっており、安心して食べられるものを消費者は求めています。
そんな状況のなか。
新規就農を希望する人の多くが有機農業に興味を持っています。
農業を仕事にするなら消費者の動向が気になるでしょうから、これから農業を始めようという段階で有機農業を選択肢に入れるのも当然だと思います。
ではここで。
なぜ有機農業なのかを冷静に分析すると、その問いに対して出てくる回答は大きく3つあります。
ひとつは環境保全のため。
ひとつは安全性
もうひとつは、需要が大きいから売れるだろうという見込み

有機農業に限らず、おそらく農家として健全であるためには3つの要素すべてを考えていく必要があります。
環境のことだけを考えていてもダメ、儲け話ばかり考えていてもダメ。
安全性だけを気にして無農薬で育てていれば売れていく時代は終わろうとしています。

今回は。
農家には総合力が必要である、という話です。
有機農業とか慣行農業とか、そのような区別は関係なくて。
様々なことを知って、いろいろな側面から自分のポジションを確立していかなければ時代に適応することができません。
賢くなってきている消費者を上回らなければならないことを知ってほしいと思います。

 

消費者は賢くなっている

食の不安

生産者にまかせておけば安心。
スーパーで売っているものは大丈夫だ。
そんなお気楽な思考を持っている消費者は減ってきています。
食の安全は脅かされているものとして、市販されている食材についてはほとんど疑っているのが現代の消費者です。
だから。
自分で調べて自ら動きます。
安全性を追求していって、納得するまで生産者を探し続けます。
科学的な見解から、統計的なデータから、実体験に基づく反応から、重箱の隅をつつくような細かいところまで調べていきます。
その知識は、下手すると生産者よりも詳しいことがあるくらいです。

でも。
消費者は安全性だけしか知りません。
農薬の危険性だけを追求します。
危険だからダメなんだという偏った意見が多く、農産物はさまざまな視点で総合的な評価をすべきものなのに安全性だけでしか評価していないという印象です。
また。
知識だけで現場を知りません。
生産現場の苦悩、植物生理、市場原理、商売としての農業。
現場を知らない学者の言葉に重みがないのと同じで、生産現場を知らない消費者の意見には重みがまったく感じられません。
もちろん現場を知らなくて当然ですので責めるつもりはまったくないのですが。

物事は全体が見えてはじめて細かいところを追求していくことができます。
全体が見えていないのに重箱の隅をつついたところで、そこにあった発見物の価値を分かるはずがありません。
様々な要素がからみあって、多様な事情で妥協をしながら消費者の手元に農産物が届いているという事実を、消費者自身はわかっていないような気がします。

安全性だけを追求していって、生産性を無視すれば価格は跳ねあがります。
超山奥で機械や肥料を使わずにやればもちろんそれなりに安全性は追求できますが、そこで生みだされる商品はとんでもない価格になってしまう。
商品の価値は安全性だけで決まるわけではなく、需要と供給のバランスであったり見た目のよさであったり、味の良し悪しだったり付加価値の付け方であったり、多くの要因がからまって価値は決まります。
とにかく安全性!
といった、ひとつのことだけに目を奪われた意見は、全体が見えていない理想論になることが多いものです。
消費者にはこのように頭でっかちで、偏った見解を持っている方がいらっしゃることを知っておく必要があります。

 

農家は総合力を持つべき

もちろんそのような消費者が悪いわけではありません。
消費者を不安にさせてしまっている供給側の問題です。
本来は食の安全なんて気にしなくても好きなものを好きなように買えるべきですから。
でも事実として食の不安はある。
だから生産者として、不安は解決できるように働きかけていかなければならないと思います。

農薬は危険なんだと血眼になって無農薬野菜を探す消費者に対して、農家自身はどういう考え方で農薬と向き合ってどう付き合っていくのかを、現場での経験を踏まえながら伝える責任があるし、本当に安心して食べていただくためには消費者の想像を越えるような知識や見識、姿勢が必要です。

農薬が安全であるか危険であるか、という視点以外にも考えるべきことはたくさんあって。
農薬を使うことで作物にはどういう影響があるのか。
毒性や残留性はもちろん、作物の生育にどれくらいの効果をもたらすのか。
農薬の使用によって生産性や労働効率などはどの程度改善されるのか。
収穫されたものがどのような価値を生んで、消費者へどういった価格で提供できるのか。
そもそも農薬は作物にとって必要なものなのか。
単純に農薬が安全である危険であるという話以上に、色々な側面から主観的に客観的に農薬というものを見つめて、農家として生産者としてしっかりと経営をしていくために判断の舵取りをしていく必要があります。
さらに。
食べ物を扱う、命を預かっているという責任をしっかりと自覚しなければならないと思います。
つまりは。
広く深い知識と経験をもち、農家は総合力で消費者を安心させるべきだということです。

安全性という一点だけをみれば博識な消費者には敵わないとしても、いろんな事情をふまえながら最善の選択や決断をしているんだという総合力で、消費者に納得してもらうべきではないか。
ということ。

総合力という話でいえば、医者が例として分かりやすいかもしれません。

かかりつけ医

あなた自身もしくは身の周りの人で、発熱による体調不良があったとき。
医学の素人である私たちは、自分の過去の体験や書籍などで得た知識から


この症状ならインフルエンザに違いない
とか
これなら布団をかぶって寝ていれば治る
といった判断を下します。

でも。
もしかしたらインフルエンザじゃない可能性もありますよね。
症状の見当違いとか自分の知らない病気だったりして、それこそ場合によっては取り返しがつかないことになる可能性もあります。
それは。
私たち素人が、持ち合わせている限られた知識や経験の中で判断をしているからです。
ところが医者の場合は違います。
そもそも医師になるためには国家試験をパスするような膨大な知識が必要で、そこに長年多くの患者に携わったことで経験が蓄積されています。
その豊富な知識や経験をもとに、症状を見て患者を見て、どんな病気なのかを特定しているわけです。
つまり、医者は幅広く深い知識・経験をベースに総合的な診断をしています。


 
素人と医師。
この圧倒的な差が分かりますか?
私たちがいくら頑張って知識を蓄えたとしても、実際に現場で長く多く患者に携わって経験を積み、数多くの責任ある判断を下してきた医者には絶対に敵わないと思います。

だからこそ医者は信頼される。
医者に診てもらえば大丈夫という安心感を得られるわけです。
農家もこのような域に達しなければ、消費者から信頼を得られないのかもしれません。

 

プロとしての責任をもつ

ただ良いものを作るだけがプロではありません。
顧客満足度というありきたりな言葉にしてしまうとチープな感じですが、良いものを作るのは満足させるためのひとつの手段でしかないんです。
情報で、価格で、品質で、健康への貢献で、安全性で、いろいろな側面からお客様を満足させるべき。
どんな切り口で満足してもらえるかわからない。
だからこそ。
農家は総合力を持たなければならないと思います。

 

ただし。
総合力を持つというのは簡単なことではありません。
医者がなぜ病気を診断して治すことができるのかというと、そこにはものすごい膨大な知識と数多く積み重ねられた経験があるからです。
優秀な医者というのは、素人から見てこれはかなわないなぁという圧倒的な知識・経験を持っているんです。
プロの農家というのも、そのように圧倒的な力量を見せつけるくらいのことをしなければ、知識武装した消費者には納得してもらえないのじゃないかな、とも思います。


農家になるには資格がいりません。
医師になるには国家資格があって、それに合格しなければ医療行為をすることができないんですが、農家になるのは全くの自由ですから知識量や栽培技術のレベルに関係なく、生産をすることも出来ますし販売をすることもできます。
だからこそ。
資格がないからこそ。
消費者に認められるプロフェッショナルだと思われるような農家にならなければならないのではないでしょうか。

ちょっと難しい話ですが、結局のところ
農業はバカにはできない
ということです。

 

 

 

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