企業生存率は農業では当てはまらない

企業生存率
という言葉は御存じでしょうか。
事業を新しく立ち上げた企業のうち、●年後には▲%が生き残っている、という統計です。
国税庁のデータがもとになっている情報ですが、
設立してから5年で15%の企業が生き残る
設立してから10年で6%の企業が生き残る
というデータがあります。
えっ?本当に?
というような数字だと思いませんか?
たった5年で85%の企業が廃業しているんですよ。
たった10年で94%の企業が世の中から消えてなくなっているんですよ。
国税庁ではない他からの企業生存率データもあって、あちこち見て回ってもだいたい似たような数字になっています。
そして、おおまかな傾向として法人よりも個人事業のほうが生存率が低い、というデータがあります。
製造業、飲食業といった産業ごとに生存率が異なることもあると思います。


細かく見ていけば多少の違いはあるものの、事業をスタートしてから10年も経てば100のうちの10くらいしか生き残っていない、というのが日本の今の現状です。

ところが。
農業においてそれが通用しなかったりするんです。
企業が廃業するというのは農業でいえば離農というやつですが、新規就農して数年でやめてしまったという人がそれほど多いという印象はありません。
もちろんゼロではありませんが、5年で15%しか生き残っていないかと言われると・・・そんなことはないでしょうね。
これにはいくつか理由があると考えられます。

 

参入障壁の高さ

実家が農家ではない、という一般的なサラリーマン家庭で育ったような人が農業を始めようと思ったら、まず農地を借りることから始めていく必要があります。
これがけっこう高い壁。
基本的には農業者でなければ買ったり借りたりできないというのが農地ですから、新規参入者が農地を借りることを想定した制度ができていません。
だから、農業を始めるために農地を借りるという誰が考えても当たり前のことが、意外に新規就農を阻む大きな壁になっています。
つまり、そもそもの参入障壁が高いのでそこである程度フルイにかけられ、網の目をくぐって就農した人は5年やそこらで辞めるような人材ではない、という見方ができます。
ところが。
農業外からの新規参入者は年間でたったの2000人程度。
新規就農者は年間で5~8万人くらいですので、実家が農家ではない人が農業を始めることがいかに珍しいことか数字でお分かり頂けると思います。
このことから言えるのは、企業生存率を考えるときには参入障壁が高いことはあまり大きな要因ではないということ。
全体からみれば新規参入者なんて少数ですから、統計への影響は少ないということです。

 

事業引き継ぎが多い

新規就農者のなかで最も大きな割合を占めるのが農家の跡取りです。
実家が農家で、親の仕事を手伝うために就農するとか事業を引き継ぐために就農するとかそのような形が非常に多いです。
新規就農者の8割から9割くらい、つまりほとんどが農家の跡取りです。
農業外からの新規参入者とは違い、実家が農家だということは最初から事業をするうえで必要なものがほとんど揃っているというメリットがあります。
農地があり、農業機械があり、作業場があり、出荷場があり、倉庫があり、その他の農業資材も同じ事業を継続するのであれば新しく購入しなければならないものはそれほど多くありません。かなり優位な状況でのスタートになります。
最初からしっかりした基盤があるなかで営農していけば、5年やそこらでは離農したりすることは少ないでしょう。
新規就農時からアドバンテージのある農家が多いからこそ、一般的な企業生存率と比べればかなり高い割合で生き残れているのではないか、と見ることができます。

 

兼業農家という選択

稲作だけでは食べていけないから農閑期にアルバイトをする。
専業農家として家族を養っていけるほど稼げないから別の仕事も持っている。
このような働き方はけっして珍しくありません。
数年やってみたけど稼げるようにならないから離農、ではなくて別に収入を持つことで農業を継続しているパターンです。
年金をもらいながら細々と農業もやっているという方もここに含まれます。
充分とはいえない稼ぎであっても細々と長く営農していっている、そんな農家がたくさんいます。
だから周りにはあまり離農している姿が見られないんです。
兼業農家という分類が離農率を引き下げていることは間違いないでしょう。

 

補助金も使って生き残る

このように考えていくと、
設立してから10年で6%の企業が生き残る
というような日本社会の厳しい現実が、農業の世界では感じられないのもうなずけます。
事業を引き継ぐ有利な条件でのスタートが多く、もしダメでも兼業農家という道がある。
農業を一生の仕事にしたいと思えば、かなりの確率でそれは可能なんです。
おまけに、安全保障のためなのか選挙対策なのか知りませんが国策として補助金がかなり入り込んでいます。
指定品目推奨補助金、転作奨励金、無利子や低利子で貸し付ける資金制度、最近では青年就農給付金制度も立ち上がっています。
ふつうに考えれば倒産してもおかしくないような経営をしている農家でも、補助金によって延命させられていることが少なくないわけです。
だから農業はだめなんだ、という話ではありません。
農業者の立場で考えてみてください。

国策として補助金制度を用意しているのであれば、それを活用しない手はありません。
頼りすぎることは危険ですが、もらえるものはもらっておこうというスタンスは否定されるものではありません。
国策ですから。
補助金制度によって赤字が黒字になる、という経営はどうかと思いますが、経営が安定して事業がスムーズに回っていくのであれば補助的に制度を利用すればいいと思います。
だって国策ですから。
ゆとり教育を推進した国策によって、教育現場では教師がそれを実践してきました。
ところが「やっぱりゆとり教育はだめでした」と国が方向転換。
このときに非難されるのは現場でゆとり教育をしてきた教師ですか?
違いますよね。
非難されるのは国であって教師個人ではありません。
農業における補助金制度も同じ。
補助金漬けだと非難する人がいたとしても、補助金を受け取る農家が非難されるべきではありません。
受け取りたかったら受け取ればいいんです。
ただし。
あくまで補助的な要素にとどめておくべきです。
国策の転換なんて当たり前にありますから、頼りすぎるのは非常に危険です。
そして、その補助金が税金であることをお忘れなく。

 

このように農業には、一般的に言われるような企業生存率が当てはまらない部分がたくさんあります。
かなり生存率は高いです。
ある意味、花園とか楽園とか呼んでもいいかもしれません。
がっつり稼ぎたい、ひと旗あげたい、という野心がある人ならともかく、ふつうに家族を養っていきたいと考えている人にとっては、生存率が高いことは喜ばしいことです。
神経をすり減らしながらいつ倒産するかわからない会社に勤めるのもいいですが、自分で道を切り開いていく覚悟さえあるなら農業は一生を捧げるに値する仕事ですし、それを実現するための条件が整っている分野だと思います。
ぜひ一歩を踏み出してみてください。

 

 

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