有機農法と自然農法の違いって?そもそも同列に語るもんじゃないんだけど・・・

有機農法と自然農法の違いはわかりますか?

有機農法はこういうもので、自然農法にはこんな特徴があるから、両者にはこんな違いがある、と。

それをちゃんと説明できる方ってどれくらいいるでしょうか?

有機農法は、無農薬で無化学肥料の栽培、あとは遺伝子組み換え技術が使われないとか、そんなイメージはあるかと思います。

じゃあ自然農法はどうでしょうか?

こちらも無農薬で無化学肥料の栽培という点では同じ、もちろん遺伝子組み換えもなし。

そこからさらに、耕さないとか草をとらないとか、さらなる制限をかけるのが自然農法じゃないの?

と考える方は多いのではないでしょうか。

この違い、知らなくてもいいといえばそうなんですが、自分のやっていることを説明するために言葉を用いる必要があるわけで、「オレは自然農法やってる!」と言ったばかりに

「それは違う、あんたのやってるのは自然農法じゃない!」

と論争になりかねない状況も当然ありえます。

定義を知らなければ誤解を生む、という意味でしっかりと有機農法と自然農法の違いを理解していただければと思います。

有機農法と自然農法の違い

まず、農業全体をおさえておく必要があります。

日本の農業は大きく分けると2つの農法があり、

慣行農法と有機農法

と呼ばれています。

慣行農法は一般農法と呼ばれることもあります。

その違いは、農薬使用の有無、化学肥料使用の有無、遺伝子組み換えの有無といったところ。

割合は圧倒的に慣行農法のほうが大きくて、ざっくり言えば

慣行農法:有機農法 = 99:1

くらいです。

生産量、栽培面積ともにだいたいこのくらいですね。

世間的にはやたら有機農業とか有機農産物とか、安全な農産物を生産する有機農業のイメージが先行していますし、それを欲しがる消費者は少なくありませんが、実際には日本の農産物の1%にも満たないことはあまり知られていない事実です。

そして今回の話の中心は有機農法、1%未満の農法についてです。

有機農法、というか有機農業は今では国によってしっかりと定義されています。

【有機農業推進法】(有機農業の推進に関する法律)

化学的に合成された肥料と農薬を使わず、遺伝子組み換え技術を利用しないことを基本とし、農業生産による環境負荷をできる限り減らした農業

これを満たしている農業が有機農業と呼ばれています。

有機農産物の表示に関わる法律で有機JAS法もありますが、それとはまた別モノですね。

さてここで。

じゃあ自然農法はどこに入るのかを考えていきますが、上記の有機農業の定義に照らし合わせると自然農法は間違いなく有機農法に含まれます。

それどころか自然農法は、さらに栽培に制限を加えている厳密な農法です。

自然農法をざっくり言うと

自然農法を解説するのはちょっと骨が折れます。

というのは、自然農法にはいくつかの流派があって、名称こそ自然農法と同じなんだけど実はまったくの別モノだったということがあるからです。

A式自然農法、B式自然農法

といった感じでしょうか。

空手の流派、華道や茶道の流派みたいなものを想像してもらえるといいかなと思います。

なぜ自然農法に流派があるのかと言えば、1940年代に2人の人物が自身の農法を

自然農法だ!

と同時期に言ったからなんです。

お互いに面識があったかどうかは定かではありませんが、同じようなタイミングで自然農法という言葉が生まれたために、それが現代にいたるまで続いてしまった。

どちらかが衰退することもなく、どちらもそれなりに普及したことが自然農法という言葉を難しくしている原因になっています。

その二人の人物とは、岡田茂吉と福岡正信。


岡田茂吉

岡田茂吉は世界救世教の教祖であり創始者ですが、農業へも造詣の深い人物です。

最初は「無肥料栽培」と呼んでいた自身の農法を、途中から自然農法と表現してます。

肥料は毒である(肥毒)という考え方が有名ですが、それでも完全に栄養分としての肥料を否定しているわけでもなく、耕したり草を処理したりすることもわりと積極的に行っているように、自然に対して人が関与することは肯定的に見ています。

あくまでも自然の仕組み、営みを尊重し、循環サイクルをお手本にしながら、土が持っている力を最大限に発揮することを目指しているようです。

このあたりの表現が、宗教家であることの影響なのか、自然農法についての表現にはっきりとしていない部分があったのか、彼の死後に弟子たちが独自に解釈した自然農法が独り歩きしていきます。

その解釈はおもに3つに分離。

それらは、いづのめ、東方之光、主之光という団体がそれぞれの自然農法を確立するに至っています。

ごく簡単に説明していますが、このあたりの経緯は複雑ですし対立構造もなかなか大変なことになっていますので、もし機会があれば別の記事として書きたいと思います。

もうひとりの人物、福岡正信。

福岡正信

彼を語るには粘土団子が欠かせません。

いろんな作物のタネを粘土団子に混ぜ込んで、それを畑や田んぼに

投げる!

投げる!

ひたすら投げる!

そして、あとは何もしない。

収穫を待つだけ。

というシンプルで分かりやすい農法を唱えています。

根本的な考え方は、なるべく自然に手を加えない。

耕さないし、草も取らないし、肥料もあげない。

自然の力をそのまま活かす、といった感じでしょうか。

ということで、自然農法は大まかに分けてしまうと岡田式と福岡式の2つ、さらに岡田式は3つの流派に分かれるということになります。

だから。

自然農法を語るときには自分がどの流派に属しているのかをはっきりさせておかないと、そもそも議論すらできないわけです。

このあたりがちょっと面倒なところであり、しばしば論争になる部分です。

岡田式自然農法の農家が

オレは自然農法で野菜をそだてている!

と言ったときに、

福岡式自然農法を実践している人にとっては

お前違うだろそれ!

となるのは当然でしょう。

また、岡田式自然農法でやってたとしても他の流派の人たちから見たら

それ違うでしょ!その資材は肥毒だ!

ってやっぱりなるわけですよ。

このあたりが自然農法を名乗る上での難しいところで、いろんな流派があることを大前提として押さえておかないと、栽培について議論を交わすことすらできないので気をつけていただきたいと思います。

自然農とは

次に、自然農という農法もわりとよく聞かれる有名な農法です。

川口由一

これは川口由一氏が先ほどの自然農法・福岡正信氏から学び、自分なりのやり方を確立していったうえで、それを自然農と名乗ったという経緯のをもつ農法です。

福岡式自然農法とは違って、栽培での制約はそれほど厳しくありません。

とはいえ、耕さないで草は刈り敷くことを基本にしており、米ぬかくらいはOKとするなどのゆるさはあるものの一般的な栽培方法よりも厳しいことは変わりません。

川口式自然農は、家庭菜園向きの農法として最近ではかなり普及してきています。

農法には提唱者がいる

ほかにも木村秋則氏の自然栽培、赤嶺勝人氏の循環農法、林幸美氏の炭素循環農法、島本覚也氏の島本微生物農法・・・

挙げたらキリがないほど多くの農法があります。

今回の記事ではひとつひとつを解説していると超長文になるので避けますが。

ここで言いたいことは何かというと、

それぞれの農法には提唱者がいる

ということ。

自然農法には福岡正信と岡田茂吉という提唱者がいました。

自然農には川口由一

自然栽培には、循環農法には、炭素循環農法には、、、

といったように、ナントカ農法と言われているものにはそれを言い出した提唱者がたいてい存在しています。

一部、資材系の農法もあって、何か特定の資材を使うときに農法を名乗ることもあるんですが。

アートテン農法、ネッカリッチ農法、ピロール農法、ステビア農法のような。

それはそれとして資材系農法に分類したとしても、たいていの農法というのは

そのやり方を主張する提唱者がいて、その人が自分が素晴らしいと思った栽培方法に名前を付けたのが農法として世の中に出回っているわけです。

じゃあここで。

有機農法はどうかというと。

定義はもちろんあります。

無農薬、無化学肥料で栽培されて、遺伝子組み換え技術を使用していない。

なおかつ環境に配慮してます。

ざっくりといえばこのような栽培を有機農法と定義しています。

そこには特定の人物、提唱者がいません。

有機農法は、ジャンルです。

慣行農法(一般農法)というジャンルがあり、有機農法というジャンルがある。

日本にはプロ野球リーグがあり、アメリカにはメジャーリーグがあります。

同じようなルールのもとでそれぞれが野球をしていますが、べつのリーグとして存在しています。

日本のプロ野球には、ジャイアンツというチームがあり、ドラゴンズというチームがある。

カープもあれば、べスターズもある。

といった具合に、プロ野球というリーグにはいくつかのチームがありますよね。

これと同じことです。

慣行農法はメジャーリーグ。

有機農法は日本プロ野球。

自然農法、自然農、循環農法それぞれは日本のプロ野球チーム。

ということ。

日本のプロ野球リーグと、チームであるジャイアンツを比べたりしませんよね?

それと同様に、有機農法と自然農法とを比べるのはおかしいんです。

名称こそ似ていますが、そもそも同列に語れるようなものではないんです。

このあたりがわかってくると、有機だ自然だと他者と議論を交わしていくときに、会話が成立しやすくなります。

他人の農法を受け入れられない狂信者

ちょっと脱線しますが、自然農法とか自然栽培を実践している人たちって、自分の農法以外を否定することがけっこう多い気がします。

自分のやってる農法こそが正しい!

あんたのやっているのは邪道だ、その栽培は間違ってる!

といった様相で。

おまけに、自然農法は提唱者が二人いたり岡田式は分裂していたりして他の自然農法を否定する人もいます。

それは自然農法じゃない!と。

我こそが正義!とマウントをとって優位に立ちたい気持ちは分からなくもないですが、その主張があまりにもバカげていることに気付くべきです。

他の農法を否定する愚かさに。

これは料理について考えてみるとすぐに理解できます。

何を作るときでもいいですが、料理をするときには環境を整えますよね。

いわゆるキッチンですが。

まずガスコンロが必要でしょうし、フライパンあった方がいいですよね。

鍋も必要だ、もし圧力鍋があれば調理時間の短縮になるかも。

いやいや電子レンジあったほうがいいよね、とか。

必要であろういろんな器具がそろっていると、当然ですが調理しやすい。

また、具材を刻んだり炒めたりしたあと、調味料で味付けしますよね。

塩とかコショウとか、醤油、お酢、味噌とか。

バターとかマヨネーズとか。

いろいろ味付けをして料理は完成に向かうはずです。

ここで言っている調理器具、つまり電子レンジとかガスコンロとか、鍋とかは農業での栽培に置き換えるなら調理環境を整えるという意味では

耕すか耕さないか、

草を刈るか刈らないか、

いう栽培環境を作ることに似ています。

料理をするときに、どんな環境でつくるのか、どんな調理器具を使うのかは、その人の自由ですよね。

電子レンジも使うのも、フライパンを使うのも、圧力鍋を使うのだって、それは個々の料理人に委ねられます。

他人にとやかく言われる筋合いはありません。

有機農法は、農薬を使わないとか化学肥料を使わないとか制限をかけている農法です。

慣行農法がどんな調理器具でも惜しみなく使えるとするなら、有機農法は電子レンジは電磁波がよくないからダメだとか、テフロン加工のフライパンは有害物質があるからダメだとか、制限をかけているようなもの。

そこからさらに強く制限をかけているのがナントカ農法です。

福岡式自然農法なんてほとんど人の手を加えない自然任せの農法ですが、これは料理でいえば焚き火をして鉄のフライパンだけ許すようなもの。

電子レンジも圧力鍋も使えません。

味付けもほとんどなし。

調味料は肥料の種類だと考えればしっくりきます。

慣行農法では多種多様なあらゆる調味料を使えますが、有機農法では味の素とか中華スープの素とか、手軽で簡単!回鍋肉ソースのような化学調味料系は使えません。

自然農法ではここからさらに、醤油もダメ、ソースもありえない、塩だけはOKだとか強い制限をかけているわけです。

それがいいとか悪いとかそういう話ではなく、それぞれの農法がそれぞれの制限をかけながら、それでも美味しい料理を作るためにがんばっているということが重要。

どんな調理器具を使ってもいい、どんな調味料を使ってもいい。

使う使わないの選択はそれぞれの農法で違うけど、結局みんなおいしい料理で作りたい。

ただそれだけのこと。

それぞれこだわりを持った職人的農家が、多くの制約を自らに課しながらも頑張って栽培を追求していますが。

それって結局のところ、目指すところは同じ。

おいしい農産物を作りたい、その一点に尽きます。

それはどんな農法であっても同じです。

ほかの農法を実践する農家が、美味しいものをつくる過程でどんな調理器具を使っていようがどんな調味料を使っていようが、それはどうでもいい話で。

他の農法から学べることはたくさんあるでしょうし、他の農法を否定する必要はまったくないと思うのですがどうでしょうか。

自分なりの農法を確立しよう

有機農法はジャンルです。

共通項を見つけてグループ化するジャンル名。

慣行農法というジャンルがあり、有機農法というジャンルがある。

その中に、さらにこだわりをプラスしていった個性あふれるチームがある。

それが自然農法、自然農、自然栽培といった農法です。

多くのナントカ農法は、有機農法というリーグの中のチームに過ぎない。

これを料理に例えるなら、

味付けが違う、それぞれ独自のこだわった味付けがあり、使ってる調理器具もそれぞれこだわりがあって厳選している、というだけの話です。

ここには何が正解という答えはありません。

答えはひとつじゃないですし。

農家が100人いれば、100通りの農法がある。

それでいいと思います。

それぞれの農家が、それぞれの考えで、置かれている環境で、それぞれのこだわりを追求した独自の栽培方法をすればいい。

その結果、生み出された美味しい農産物が、こだわりをちゃんと認めてくれる消費者の手に渡ってくれたら、もうそれで充分だと思います。

栽培にこだわり、農法を追求していこうとしているなら、フランチャイズチェーンのように本部のやり方に縛られることなく、自分なりのアレンジも加えながら独自の農法を確立していってもらえれば、有機農業は非常におもしろくなっていくはずです。

参考にしてみてください。

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