化学肥料の価格高騰を乗り越えるには?


化学肥料の価格(輸入品)の推移 日本銀行 企業物価指数を基にGD Freak!が作成

化学肥料の価格高騰がとんでもないことになっています。窒素・リン酸・カリといった主要成分を含む肥料が1年前に比べて2倍に跳ね上がっている、しかももっと高くなりそうな気配。農家が顔面蒼白になってしまう状況です。

2倍って・・・肥料代100万円かけている農家がいたら200万円になるって話ですからね。恐ろしいですよ。売り上げが増えないのに経費だけ100万円増えるって話です。収入が100万円目減りするって話です。去年までと同じ栽培をしているのに、です。

やばい!もっと上がりそうだから今のうちに確保しとかなきゃ!
いや、そもそも春作に必要な肥料が回ってこないぞ!どうするんだぁ!
と新型コロナ騒動でのマスク争奪戦やオイルショック下におけるトイレットペーパー争奪戦に匹敵するような混乱が起きているところもあるようです。

農家にとって栽培に必要な肥料を確保することは生産量維持への死活問題ですから、危機感をもって動かざるをえないでしょう。なりふり構っていられません。国もJAもこの状況をなんとかしなければと対応に動いているようですが、どうやら期待できなさそうな気配ですし。

この難局を乗り切るためにも化学肥料という存在を今一度考えてみましょう。
なぜ化学肥料の価格が高騰しているのか?この傾向は一時的なものなのか、まだまだ続くのか?目の前にある危機に農家はどう対処していけばいいのか?このあたりを農林水産省の資料をもとに解説していきます。

化学肥料の算出と流通 輸入体質ニッポン

価格高騰を知るには化学肥料の原材料がどのように産出され流通しているのかを知っておいたほうがいいです。
うすうす気づいている、というかみんな知っていることですが、主要な肥料窒素・リン酸・カリの原材料のほとんどを日本は輸入に頼っています。

肥料及び肥料原料をめぐる事情 – 主要化学肥料の製造工程 (農林水産省)

窒素は空気中にたくさんあるものですが、肥料として形にするため原油や天然ガスを使用します。また、尿素という製品の形で海外からかなりの量を輸入しています。
輸入先は中国 (51%)、マレーシア(39%)、カタール(10%)

リン酸はリン鉱石から作られる肥料で、
中国(38%)、ヨルダン(21%)、モロッコ(18%)、南アフリカ(17%)
おもに4か国から輸入しています。

カリウムについては加里鉱石から作られています。
日本はカナダ (71%)、ロシア(16%)からの輸入がほとんどを占めている状況です。

需要と供給からみる価格高騰の原因

価格高騰の原因を一言で表すなら「取り合いになっている」です。
穀物需要が増えたことによる肥料価格の高騰・・・ちゃんと説明しますね。


肥料及び肥料原料をめぐる事情 – 昨年の肥料原料の高騰要因 (農林水産省)

2050年には90億人を超えることが予想されるなかで、人口増加による食料用穀物の需要が増え続けています。麦、大豆、トウモロコシなどの穀物の増産が追い付いてない状況。また、途上国で食生活が豊かになってきて穀物需要が増えていることも要因としては大きいようです。米国やブラジルのなどでバイオ燃料の増産をしていることも、穀物需要が増える要因になっています。

穀物を欲しい人が増えて、供給が追い付かなければ価格は上がりますよね。需給バランスが崩れているわけです。穀物の価格が上がっている、だから生産者は意欲的に増産する、化学肥料をバンバン使う、化学肥料の需要が増えて需給バランスが崩れる、肥料価格が高騰する。こんな流れですね。

もちろん需要だけじゃなく供給での要因もあります。

環境保護策などでリン鉱石の生産量が減少しているところへ、産出国(中国・米国)が「オレたちの分をまずはちゃんと確保しなきゃね」と自国優先で輸出を制限しています。これで供給量が減少。需要が増えていて供給が減る、そりゃあ肥料価格跳ね上がりますよ。

さらには原油価格の高騰による海上運賃高騰も関係しているようで。トリプルパンチ。

輸入に頼り切っている日本では、こういった国際情勢をモロに受けてしまいます。いくつもの事情が重なっていることもあり今回の肥料価格高騰は、当面続くのではないかと予想がつきますね。

いや、僕の予想じゃないですよ。ちゃんとしたところが言ってます。
米国の大手肥料メーカー「CFインダストリーズ」は、第3四半期の実績発表会で「少なくとも2023年までは国際的に強い肥料需要が続くことから、肥料の量は十分ではない」とし「不足する肥料を確保できなければ、来年は全世界の穀物収穫量が減少するだろう」と述べています。

さあどうしますか?肥料高騰は続くって。へーそうなんだーと傍観していられるのは有機肥料しか使わない有機農業者くらいのもので、化学肥料をおもに使用して生産する農家はなにかしらの対策をしなければ経営の存続に関わります。

対策 農水省から「農業者の皆様へ」

どうしようもないじゃん、黙って高くなった肥料を買うしかないよ、いつも買ってるJAが値上げしちゃってるんだからどうすることもできないよ。JAになんとかしてもらうしかないよ、農家ができることなんてない。そんな声が聞こえてきそうです。

安西先生は言ってますよ。「諦めたらそこで試合終了ですよ」と。考えうる手を尽くしてそれでも価格高騰にあらがえなかったとしたら、それはしょうがないです。試合終了もやむなしでしょう。

でもやれることがあるならまだ試合は終わっていません。どうにかなる道があるなら、もがいたほうがいいとは思いませんか?

もがく意欲のある農家には、農林水産省から対応策が提示されています。行政から出てくる策なのでありきたりといえばそれまでですが、どうしたらいいか分からない農家にとっては遠い遠い天上から垂らされた蜘蛛の糸にも等しいものです。すがりましょうよ。

肥料関係情報「農業者の皆様へ」(農林水産省)

そのまま一部抜粋して載せますが、詳しく知りたい方は上のリンクをたどってみてください。

1.配送費を減らしてみませんか
資材販売店により取組内容は異なりますが、配送方式を変えることで配送費を安くしたり、配送費込みの肥料価格の場合は値引きメニューを用意しているお店があります。

2.安価な肥料銘柄に替えてみませんか
資材販売店により取り扱っている肥料の種類は異なりますが、現在使用している肥料の銘柄を切り替えることで、肥料費等を減らすことができます。土壌や作物の状況などに応じて、適切な銘柄を選定しましょう。

3.肥料の購入先を見直してみませんか
資材販売店を対象に実施した肥料の販売価格調査では、同じ銘柄や同成分の肥料であっても約2~3倍の価格差が存在することが明らかになっています。肥料の購入先を見直すことで、肥料を安価に購入することができます。

4.土づくりに力を入れてみませんか
緑肥や堆肥等を利用することで、土づくりができるだけでなく、化学肥料を節減することでコスト削減できる場合があります。困った時には、お近くの土づくり専門家(施肥技術マイスター、施肥技術シニアマイスター、土壌医)に相談してみましょう。

5.土壌診断や土壌管理アプリを使用してみませんか
土壌診断や土壌管理アプリを使用することにより、土壌中の肥料成分の過不足等を見える化することができますので、施肥設計の効果的な見直しが可能となり、減肥や作物の収量安定につながります。

6.いろいろな施肥量の低減技術を導入してみませんか
さまざまなタイプの施肥量低減技術が紹介されています。経営にあった技術を積極的に導入してみましょう。

補助金により肥料価格高騰をサポート

肥料コスト低減体系緊急転換事業(農林水産省)

あれやりましょう、これやりましょう、と押し付けるだけではなく農林水産省は肥料コストの削減に向けた取組に対して補助金を用意しています。
令和3年度補正予算「肥料コスト低減体系緊急転換事業」
・肥料コスト低減体系への転換確立に向けた検討会の開催[任意]【補助率:定額】
・肥料コスト低減体系への転換を進める取組(「土壌診断」と「肥料コスト低減に資する技術」を組み合わせた取組)の実証[必須]【補助率:「土壌診断」は定額、「肥料コスト低減に資する技術」は2分の1以内】
・肥料コスト低減効果の情報発信[必須]【補助率:定額】

ようするに、
①土壌診断の費用、施肥設計の相談料、簡易土壌診断の試薬やキットの購入費などに全額補助
②堆肥の運搬費、散布代行料、成分分析費、緑肥の種子散布代行料、すき込み作業の代行料、局所・可変施肥機のレンタル料、ドローン施肥の作業代行料などに半額補助
という補助金事業です。肥料の購入費を直接支援するようなものではありませんが、積極的に変革していこうとする農家には手を差し伸べてくれます。ピンチはチャンスととらえて事業を活用してみるのも手ではないでしょうか。

ゲスの勘繰りしてる場合じゃない

2021年5月に農林水産省から出された新たな目標「みどりの食料システム戦略」。このなかで2050年までに

化学肥料の使用量を30%低減

という目標を掲げています。「有機農業の取組面積を25%にする」という別の目標に比べれば実現可能のように感じますが、それでも30%減はかんたんなことではありません。

最近の化学肥料高騰のニュースを目にすると「みどり戦略達成への布石か?」「強制的に化学肥料を減らす気か?」と勘繰りたくもなりますが、もしそうだとしたらあまりにも強引すぎますね。テレビをアナログからデジタルへ強制移行したように、化学肥料の輸入をストップしたら移行できるという単純な話じゃないですから。

もし戦略的に化学肥料高騰が仕組まれているとしたら・・・農林水産省の剛腕ぶりには感嘆するしかありません。現場の農家はたまったもんじゃないですけどね。まあ実際はそんなことないでしょうけど、 肥料コスト低減体系緊急転換事業がアメじゃないことを祈るばかりです 。

多品目栽培でこんな間違いをしていませんか?

たくさんの種類の野菜を同時に育てる、かんたんに表現すれば家庭菜園を大きくしたような農業。

このような、いわゆる多品目栽培は、有機農業ではよくやられている方法なのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。
そして、多くの農家がやってるんだから自分にもできるだろうと、独学で、農家研修で、栽培の基本を学んでから実際に自分でやってみるのですが・・・
このときすでに、じつは大きな間違いをしています。

それは・・・

有機農業が慣行農業の5倍も儲かるって!?

有機農業者は、あまりお金の話をしたがりません。

「収入に魅力を感じて農業をしてるんじゃない。わずらわしい人間関係から解放されて、健康的な暮らしをしたいから有機農業の道を選んだんだ。」

と、収入は二の次だと言います。
だからこそ見えなくなっていた真実。それは、

有機農業はちゃんと稼げる

ということ。家族を養っていくことくらいは簡単に実現できます。しかも、栽培がうまいとかヘタとか関係ありません。誰でも実現できるものです。

ただし、条件があります。
それは・・・

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