有機農産物=安全というアピールだけでは不十分

農薬は科学的にみて安全なものである。
という主張は、最近では有機農業者の間でも湧きおこるようになってきています。
農薬は科学的にしっかりと安全であると証明されているものだから、使用基準を守って使うのであれば消費者の安全は保障されている、というものです。
個人的にこれは素晴らしい流れだと思います。
有機農業者が農薬を肯定することは素晴らしいことだと思います。

なぜなら。
農薬を使った一般的な農業をやっている人たちが
「農薬は安全だ!」
といくら叫んでも自己保身だと思われるだけでまったく意味がありません。
農薬をふつうに使っておいて、
農薬は安全なものです、みなさん安心して召し上がってください!
と声高に叫んだところで、自分たちの商品を売りたいからそう言っているんでしょと思われてしまって意見が通りません。

農薬の安全性
ところが。
農薬を使わない人たちが
「農薬は安全だ!」
と叫ぶことには一定の効果があるんです。
それは自分たちにとって首をしめることにもなりかねない意見だからこそ心に響くんです。
農薬を使わない農業は、言ってしまえば農薬を使った一般的な農業があるからこそ成り立つものです。
無農薬のものをなぜ買ってくれるのかといえば、一般的な農産物に満足できない、安心できないから買いたいと思ってくれる人がいるわけで、農薬を使ってもしっかり安全が確保できるんだと分かったらわざわざ高い有機農産物を買おうと思ってくれる人は減ってしまいます。

それなのに。
一部の有機農業者は「農薬は安全だ」と主張する。
自分たちの首を絞めてまで農薬の安全を主張する。
なぜだかわかりますか?

その答えは単純です。

有機農産物を、安全性という土俵で評価していないから。

農薬の危険性をクローズアップして有機農産物の安全性をアピールするという路線は、もはや時代遅れの考え方になりつつあります。
消費者はいまだに「有機は安全だ」という見方をしているかもしれませんが、生産者はすでにその領域をクリアして次のステップに向かっています。
その向かう先は品質であったり、味であったり、関係性であったりブランド化であったり。
安全であることは大前提であって、これからはもっと別の価値で勝負していかなければ生き残っていけないと考えています。
一般的な農産物を否定することなく、それを認めたうえで、さらに上を目指そうとしている。
有機農業の世界ではそのような動きがでてきています。

 

安全という土俵で戦えるのか

相撲
もしかしたらあなたは、農薬の使用に危険性を感じて有機農業を目指しているかもしれません。
農地保全のため、地球環境のため、なるべく負荷のかからない環境保全型農業をやりたいと思っているかもしれません。
それは。
これまで消費者として生きてきたのであれば当然の考え方です。
消費者がそのような考え方を持っているのはごくごく普通であり間違っていません。
そのまま消費者として生きるなら、その考え方でも一向に構いません。
でも生産者になるつもりなら考え方を変える必要に迫られるかもしれませんよ。

すでに一部の有機農業者は、安全をウリにしなくなってきています。
安全なのは当たり前のものとして、味や品質、安心感などさらなる価値を提供してきています。
そんな時代に、いまだに安全性だけをウリにした農産物が売れていくと思いますか?
今はまだいいですよ、消費者が安全を求めていますから。
メディアもいまだに有機農産物=安全というロジックを保っていますから。
でも安全+αの価値を提供している有機農家が増えていく中で、安全だけをウリにしてやっていけるでしょうか。
有機農産物=安全に加えて、一般農産物=安全も認識されるようになってきたら戦っていけるでしょうか。

安全だけをウリにすることは非常に危険です。
有機農産物=安全というブランドに頼るのではなく、自分はそれ以外のどんな価値を提供していけるのかを考える。
そんなことも考えていく必要があります。

具体的にどうしたらいいのかについては他の記事で書いています。
新規就農者が熟練農業者と対等に戦う方法
競合する農家とは同じ土俵で戦わない

有機農業をやってみようと思っている新規就農希望者が多いからこそ、競争相手が多いからこそほかの人とは違ったところに価値をつくって、この人から買いたいと言ってもらえるような農産物を提供していかなければならない。
そんな時代ですよ。

 

今回の記事が、あなたにとって少しでも役に立ちましたら幸いです。

 

 

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