家庭菜園から新規就農へ、陥りがちな失敗とは

家庭菜園をやってみて、野菜を育てる楽しみを知り、その延長で農業を仕事として考えるようになる方がいます。
家庭菜園をやっている方のなかには本当にうまく栽培することができる方がいらっしゃって、見た目がきれいで味も申し分ない野菜を育てておられます。
そして、
「こんなにうまく野菜を育てられるんだから売れるだろう、仕事としてやっていけるだろう」
と考えがちです。
そんな方が陥りがちな失敗、気を付けるべき点について書いていきます。
参考になれば幸いです。
 

面積からみる労働コスト

家庭菜園
農業というのは、商品(農産物)をつくって売ることで利益を得ていく、立派な商売です。
商品を1円でも高く売り、1円でも経費を低く抑えることで、利益をあげていきます。
売り上げ - 経費 = 利益
ですから当然です。
ここでの経費は、肥料代とかタネ代とか機械代や燃料費、包装や梱包などに必要な消耗品費などです。
このような経費に関しては、惜しみなく資材・金を投入する家庭菜園出身者であっても、実際に農業を始めていくと支出を抑えようとして経費削減を気にするようになります。
ところが。
もっとも大きな経費でありながら家庭菜園出身者がもっとも忘れやすい経費があります。
人件費です。
個人事業としてやっていくとか家族経営なら人件費はタダでしょ?
と思われた方、ある意味では当たっています。
家族総出でがっつり働いたからといっても、家族に給料を支払ったことにするだけですから、農家の家計として支出が増えるわけではありません。
でもよく考えてみてください。
あなたが働ける時間は無限ではありません。
家族の時間ももちろん無限ではありません。
ものすごい手間と愛情をかけて小さな面積で野菜を育てて、最高品質の野菜ができたとします。
その手間を、面積が大きく広がったときにも同じようにかけられますか?
生えてくる草をその場で刈って野菜の株元に敷いていく、その丁寧な作業を大面積になってもできると思いますか?
無理です。
家庭菜園でやっていたように、時間と手間暇をかけて育てることは、仕事として農業を考えた時には通用しません。
農家がやるべきことは、自分がもっている限られた時間の中で、時間の制約を受けながらも手間をかけて満足のいく野菜を育てていく作業です。
時間のかかる作業を改善しようと機械化を進めていきます。
持っている時間をやりくりして、最大限の利益を上げるための努力をしています。
そこには家庭菜園でのやり方は通用しません。

 

収入からみる労働コスト

腕時計
別の視点でも見ていくとより分かりやすくなります。
例えばあなたが500万円の年収がほしいと考えていたとして、そのために必要な栽培面積は露地がメインの有機栽培ではだいたい1町歩(約3000坪)から1.5町歩ほどです。
そんな面積になっても家庭菜園でやっているような栽培管理ができると思いますか?
そして、あなたが仕事として農業に使える時間は、朝から晩まで年中無休で働いたとしても4000時間ほどです。
まあ4000時間も働いたら倒れるでしょうからせいぜい3000時間でしょうか。
3000時間という枠の中で、畑で野菜を管理して野菜を育て、収穫をして、出荷をしていく。
もちろん栽培管理だけに時間を使えるわけではありません。
収穫から出荷にかかる時間もそうとうなものですから、栽培そのものにかけることができる時間は限られています。
1町歩という面積で3000時間を使って農業をしていく、というのはやったことがない方には想像ができない世界です。
ですが、やったことのある人間から言わせてもらえば
作業効率を意識しなきゃ無理
というレベルの面積です。
そんな面積をこなさなければ希望とする年収には届かない、使える時間は限られている。
となれば必然的に効率を追求していくしかありません、家庭菜園的なのんびり丁寧な仕事を捨てなければなりません。

 

基本的な栽培を身につける。
手をかければちゃんと育ってくれることを肌で感じる。
ということを知るために家庭菜園をやってみるのは有効だと思います。
ですが、仕事として農業を始めたときには捨てなければならない感覚、
時間を意識する感覚
があることを覚えておいてください。

 

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