【大混乱】高収益作物次期作支援交付金はどこへ向かうのか?農家の怒りの声は届くのか?

いま大変な騒ぎになっている高収益作物次期作支援交付金。給付要件の急な変更によって、もらえるはずの補助金がもらえなくなった、大幅に減ってしまった。 どうしてくれるんだ農水省!という農家の怒りが飛びまくっています。

その怒りはごもっともなところもあります。確かに、今回の騒動に関しては農水省の対応が悪いと思いますし、支援の制度設計そのものが甘かったと言わざるを得ません。一度リリースしておいたものを「やっぱやーめた」これはだめでしょ。ですが少し冷静になれば、農家と農水省どちらの言い分も分かるなー、けど農水省が一方的に悪いわけでもないんだよなぁ、もし農家の怒りの矛先を向けるとしたら農水省じゃなくて財務省だよなーということが見えてきます。

私自身が農家でありながらも、完全に農家の味方をするわけではなく、農水省の肩を持つような話もしていきますので、ご批判を受けることは覚悟の上で。ほんの少しでもいいので農家の皆さんどうか溜飲を下げてください、もうすこし冷静になってください、という想いで動画にしています。今回は、変更に次ぐ変更というドタバタ劇を解説するものですので、交付金についてのくわしい内容についてはスルーします。この交付金の対象者の多くはJA組合員になると思いますし、詳しい説明はJAもしくは担当する行政機関からされるでしょうから、そちらで詳細をご確認ください。それではいってみましょう。

高収益作物次期作支援とは

https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/jikisaku.html

この支援制度そのものについてざっくりとですが解説します。というか、この支援制度はJAや行政機関などの協議会を窓口にして申請するものですから、詳しいことはその窓口で詳しく聞いたほうが確実です。さて高収益作物次期作支援交付金ですがこの制度の趣旨は次のようになっています。

「新型コロナウイルス感染症の発生により卸売市場での売上げが減少する等の影響を受けた野菜・花き・果樹・茶等の高収益作物について、次期作に前向きに取り組む生産者を支援するための交付金」

これ要するに、新型コロナによって何らかの影響を受けた品目を生産する農家が、来年もめげずに作付を行うなら支援しましょう、というものなんです。微妙な表現をしてますが、農家が売り上げ減少したことは問われない、市場が影響を受けたという事実によって支援が決まるんですよ。

対象になる品目は野菜・花き・果樹・茶等の高収益作物
その中でも令和2年2月から4月に
ア 卸売市場での売上げが前年同月比2割以上減少
イ 観光農園の来園者数が前年同月比2割以上減少
ウ 輸出額が前年同月比1割以上減少
した品目が対象になります。
これは個々の農家の売り上げが減少したという話ではなくて、卸売市場での売上減少を指していて、緊急事態宣言で飲食業が休業したことでタマネギの卸売市場での取引量が激減した、冠婚葬祭の自粛によって花の需要が激減した、みたいなことですね。実際に発表されている限りでは野菜・花き・果樹・茶等では全品目が対象になっています。

そして、その対象品目について出荷実績があること、もしくは廃棄して出荷できなかったことが支援を受ける条件になっています。つまり、今年2月~4月に新型コロナの影響があって対象品目に指定された作物を、自分が出荷したもしくは破棄したという実績があれば交付対象者になるということです。

他にも要件としては
収入保険、農業共済等のセーフティネットに加入している又は今後加入を検討している
という要件もあるんですが、この表現でいえばほぼ全農家が該当してもおかしくない条件なので、2月~4月に対象品目を出荷もしくは廃棄しているかどうかが大きなポイントになると思います。

支援内容

さて気になる交付額ですが、支援内容は3つあります。
1.高収益作物の次期作に向けた取組
2.次期作に向けた新しい取組
3.高品質なものを厳選して出荷する取組
これら3つについて、それぞれ交付金がつけられています。
ひとつめの支援「次期作に向けた取組」についてですが、これは対象品目について下記の取り組みを2つ以上実施すれば、その面積に応じて交付額が決まります。
ア 生産・流通コストの削減に資する取組
イ 生産性又は品質向上に要する資材等の導入に資する取組
ウ 土づくり・排水対策等作柄安定に資する取組
エ 作業環境の改善に資する取組
オ 事業継続計画の策定の取組
これってけっこう普通に営農していればやるような当たり前の取り組みです。特に目新しいことをしなくても来年も意欲的に取り組もうと思えば当然やるべきことばかりですから、だれでも該当しそうな取組ですね。

交付額は、使った金額の二分の一補助とかよくある補助金とは違って、面積当たりの定額給付になっています。
・基本単価 5万円/10a
・施設栽培の花き、大葉、わさび 80万円/10a
・施設栽培のマンゴー、おうとう、ぶどう 25万円/10a
たとえば10haで基本単価が適用される対象品目を栽培していれば
5万円/10a × 100 = 500万円
が交付額になるということ。えぇっ!金額でかすぎるでしょ!
普通に営農していればやるような、当たり前の取り組みをするだけでこの金額って・・・とんでもない大盤振る舞いだということがよく分かります。

2つめの「次期作に向けた新しい取組」についても面積に応じた定額給付です。こちらは、新しく販路を開拓するとか新技術を導入するとか新しい取り組みに対して支援される内容になっていて
①新たに直販等を行うためのHP等の整備
②新品種・新技術の導入等に向けた取組
③海外の残留農薬基準への対応又は有機農業・GAP等の取組
それぞれの取組にたいして2万円/10aなので、3取組(①②③全て)で最大6万円/10aが面積に応じて交付されます。こちらもかなり金額が大きいですよね。

そして3つめですが、これは対象品目がかなり限られています。花き、茶、施設栽培の大葉、わさび、マンゴー、おうとう、ぶどう。
「高品質なものを厳選して出荷する取組」について
1人・1日あたり2,200円を支援する
人件費を負担してくれるということですね。対象となる取組については下記のようになっています。
(花きの取組例)
・フラワーネット張りの調整
・芽かき・摘花・整枝
・冷蔵貯蔵等による出荷調整 等
(茶の取組例)
・被覆作業の実施
・化粧ならし・遅れ芽除去
・荒茶の分別製造調整 等

ということで見ていただいて分かる通り、要件を満たせる農家はかなり多くてしかも交付金額も大きい、どんだけ大盤振る舞いするんですか?と疑いたくなるような支援制度になっています。

今回の騒動

さて今回の動画はここからが本題です。かなり大盤振る舞いな支援制度なのはご理解いただけたと思いますが、そのせいで申請が殺到してしまいました。農水省もおそらく予想はしていたと思うのですが、予算242億円に対して1次公募の時点で450億円を超える申請が出されてしまいました。このことで、財布のひもを握っている財務省からダメ出しをくらって、2020年10月12日に運用の見直しが発表されました。その内容は次のようになっています。

1 交付対象面積の変更
  次期作の全作付面積 ➡ 売上げが減少した品目の作付面積

2 交付額の上限設定
  各農業者の減収額を超えない範囲で交付金を支払い
  あくまでも売り上げ減少を補填する形へ変更

3 厳選出荷の取組日数の上限設定
  作業従事者1人につき90日まで

もともとこの支援制度の趣旨というのは
新型コロナの影響を受けた高収益作物について、次期作に前向きに取り組む生産者を支援するための交付金
ですので当初の趣旨はちゃんと守ったままですが、売上はさほど減少してないけど要件満たすからもらっとこう!という農家は除外して、本当にコロナの影響を受けた苦しい農家に限定して交付するように変更したということ、になります。

この要件の変更によって、もらえるはずだったのにもらえなくなってしまった、交付額が大幅に減額されてしまった。そんな農家はかなり多いのではないでしょうか?

この運用の見直しによって農業界は大騒ぎになりました。
ふざけんなバカやろう!後出しじゃんけんみたいなことすんな!補助金あてにして機械買ってしまったじゃねーか!申請が殺到することなんて分かってただろ!など怒りの声が多数聞かれました。そこで、運用見直しの事情を説明するために、農政局などの担当者が説明・謝罪のために駆けずり回っていると聞いています。

その補助金を当てにして機械やら資材やら買ったんだよ、次期作に向けての先行投資を支援するための交付金じゃないのか!という声、ごもっともな意見だとは思います。次期作支援交付金ですからね。この運用見直しについて、当事者からの批判を覚悟でストレートに表現するなら

美味しそうなニンジンが目の前にぶら下げられて、喜んで飛びついたらニンジンを引っ込められた
そんな感じじゃないでしょうか。もちろんですが、新型コロナの影響に対する救済措置として、売上が大幅に減少して本当に困っている農家へはじゅうぶんに交付金がいきわたるように、との配慮は運用見直しでも変わっていません。目の前のニンジンを食べないと腹が減って死んでしまう、そういう農家からニンジンは取りあげてないんです。売上はそれほど減少してないけど、とりあえずニンジンくれるっていうしもらっておこう、という農家が大幅に交付金の減額をされているのが現状ではないでしょうか。

とはいえ、この支援制度に振り回されて迷惑をこうむった農家もいますよね。補助金を当てにして機械やら資材やら買った、もし最初から支援なんてなければ買わなかったのに、、、という農家がいることもまた事実です。この点については、農家を振り回した責任としてなんとか救済する必要があるのではないか。

ということで、運用見直し発表から18日後の2020年10月30日に、新たな救済措置が設けられました。内容が二転三転してます・・・。その内容は、まだ詳細は出ていないのでおおざっぱなものですが次のように説明されています。

追加措置

高収益作物次期作支援交付金の運用見直しに伴う追加措置について
農林水産省は、10月12日、令和2年度第1次補正予算で措置した高収益作物次期作支援交付金について、運用見直しを行いました。この運用見直し以前に、本交付金を見込んで、機械や資材に既に投資を行うなど、コロナ禍にあっても積極的な取組を行った生産者の経営に影響が生じ、取組の継続ができなくなることがないよう、今般、本交付金において、早期の投資により生産性向上等を目指す取組(実証)に対する追加の支援措置を講じることとしました。

1.追加支援の対象
本交付金の10月の運用見直しにより、交付予定額が減額又はゼロとなった生産者であって、かつ、事業開始(4月30日)から10月の運用見直しまで(10/30)の間に、次期作に向けて、新たに機械・施設の整備や、資材等の購入又は発注を行った生産者

どれくらいの追加支援が行われるか、などの詳細については順次説明があると思いますが、運用見直しによって沸騰した農家の怒りは、ひとまずは農水省に届いた。というのが今現在の状況です。

誰が悪いのか

さて今回の騒動についてすこし冷静に考えてみます。ちょっと想像してみてほしいのですが、被災地の炊き出しってありますよね。

地震や津波の被害にあってしまい家が倒壊、帰るところがなくなって避難所にきている。そこには同じような境遇の方がたくさんいます。何十人、何百人と避難してきています。そんな被災地へ向けて国がすばやく動いて自衛隊を派遣、現地で炊き出しが行われました。
「皆さん、炊き出しが出来ました。たくさんご用意していますから食べたい方は並んでください」
と言われたら、まあ並びますよね。お腹すいてますし、タダでもらえるものですし。その炊き出しは、被災された方をなんとか助けたいという想いで、全員になんとか行き渡らせたいという思いで、ある意味では善意で行われているものです。でも、いざ声をかけてみたら用意していた人数分以上に人が並んでしまった。そのことに、あとから気づいてしまったんです。自衛隊員は言います。
「大変申し訳ありません、たくさんご用意はしたのですが並んでいるかた全員に行き渡る分はなさそうです。お子さん、ご年配の方などへまずは優先してお配りしたいと思います。」

どう感じましたか?ここで並んでいた人の中には「 ふざけんな俺だって腹減ってんだ 」と怒りをぶちかます人もいるかもしれません。けれども、炊き出しの運用見直しに対して理解を示す人もいると思うんですよ。

数が足りないんじゃしょうがないよね、腹は減ってるけど我慢するよ、とか本当に困っている人を優先して配給するのは当然だよね、とか。この状況が今の 農水省と農家との関係にすごく似ていると思いませんか?

農水省はコロナで苦しむ農家のためになんとかしてあげたいと、補助金を大盤振る舞いしたんですよ。でも、財務省があとになって「それは配りすぎだ」とイチャモンつけてきたので、振る舞えるモノが減ってしまった。という構図ですよね。運用の見直しで農家から反感を買ってしまったけれど、農水省はあくまでも農家の味方として救いの手を差し伸べてるんですよ。決して苦しめようと思ってやってるわけではありません。
もし、ここであえて悪者を挙げるなら財務省ではないでしょうか。というか突き詰めていけば財務省だって悪意があってやってるわけじゃなくて、諸悪の根源は新型コロナであり、もしかしたら財務省だって悪者にすべきじゃないかもしれません。

私も農家ですから今回の対応については怒りたくなる気持ちは分かります。ですが、ほんの少しでいいので今の状況を冷静に見つめ直してほしいと思います。目の前にぶら下げられた人参を引っ込められて怒りが湧いた。それは分かります。けれども農水省は一度出した人参をなぜ引っ込められなければならなかったのか、自分は本当にその人参を受けなければならないのか、少し落ち着いて考えてみませんか?

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