ふつうの商売であれば、商品の開発よりもターゲット設定が先だという話をしました。
自分の育てた農産物を、誰に買ってほしいと思っているのかをまず先に明確にしなければ、どんな作物を育てるのかどんな品種を使うのかどんな栽培方法を採用するのか、決めることができません。
でも。
どうしても有機農業がやりたい。
僕は自然栽培でやっていきたい。
そういう強い決意で就農しようと考えている人、いますよね。
というか、そういう人のほうが多いと思います。
私もそうでしたし。
農法や栽培方法を先に考えると何が起きるのか。
本当にだめなんでしょうか。
今回は、農法を先に決めて新規就農を考えたときにどんなことが想定されるのか、について書いていきます。
想定できるということは、対策が打てるということ。
ぜひ参考にしてみてください。
目次
その農法の農作物を欲しい人はどれくらいいるのか
自然農法で安全・安心を追求した米を栽培していきたい。
自然栽培で体に染み込むような味わいの野菜を育てたい。
このようにスタートしたときに問題になることは、じつは1つだけです。
これさえ分かっていれば、農法の選択が最初にあってもさほど大きな問題は起こりません。
分かっていれば農法を先に選んでしまってもいい、とも言えます。
それは。
顧客が限定される、ということです。
その農法、栽培方法によってできあがった農産物を求めている人は、限られているということです。
農協に農産物を卸したいと考えているのに、農協が求めていない有機栽培のものを生産しようとするのは間違っている。
ということは分かりますよね。
農薬や化学肥料を使ったいわゆる慣行農法で、農協に求められるような品質の農産物をつくるから買ってもらえるんです。
慣行農法というやり方を選択するのであれば、それに見合った売り先があります。
それを無視して売りたいところに売ろうとしても、売れるはずがありません。
安心・安全を求めている消費者に対して、慣行農法の農産物を売ろうとする。
高級志向で、美味しく、さらに珍しい品種を求めているレストランに対して、農協が欲しがるような慣行農法の農産物を売ろうとする。
こういう売り方は、絶対に無理だとは言いませんが難しいことは容易に想像できます。
そして。
その栽培方法が特殊であればあるほど、買ってくれるお客様は減っていきます。
わかりやすい例が自然栽培です。
自然栽培は、はっきりとした定義があるわけではありませんが
無農薬かつ無肥料で栽培する
ということはどの農家をみても共通している決まりごとです。
自然栽培をするということは、無農薬であることに加えて無肥料という選択を迫られるんです。
成長するために与えられる栄養分は少なく、かなり厳しい環境で作物を育てることになります。
それは、大きく育てることが難しい半面、野性的に育てられることで生命力あふれたたくましい作物が育つという面も持っています。
肥料による味付けがないから、あっさりとした体が喜ぶような味わいがある農作物が出来上がる、可能性があります。
その栽培方法を否定するつもりはありません。
理想や理念は素晴らしいと思いますし、育てられた農作物も見る人が見れば高い評価をつけるに値するものです。
でも。
自然栽培のような特殊な方法をとるときに顕著に表れる問題が、今回とりあげている
顧客が限定される
という点なんです。
見込み客を探す
自然栽培のような特別な農産物を欲しい人はどんな人ですか?
農薬や化学肥料を使わない有機農法では満足できない。
有機肥料ですら危険だと感じている人。
肥料そのものが作物を育てることにおいては毒だと考えている人。
自然味あふれるあっさりとした味わいで、かつ生命力にあふれているものを求めている味にうるさい人。
そのような人が、自然栽培の農産物を求めています。
大事なことはその農産物を求めている人に、欲しいと思っている人に売れるのかどうか。
誰に売りたいのかというターゲットを明確にしないまま、たんに自分が自然栽培をしたいだけ、という場合がけっこう見受けられるんです。
そもそも自然栽培のようなニーズが限られた栽培をするときは、そのターゲットは絞りこまなくても最初から明確になっています。
味を追求する飲食店か、食の安全をかなり厳しく追求する一般人か。
有機栽培ですら満足できない人が対象になります。
そのような人を探すのは容易ではありません。
そのへんを歩いていて見つかるような人たちではありません。
安いものを求めてスーパーで行列をつくるような人では決してありません。
もともとの需要が少ないのでクチコミで広げていくのはけっこう大変です。
自然栽培を信仰する消費者グループを見つけるか、ナチュラルハーモニーのような販売会社と契約するか、素材にこだわる飲食店に営業をかけるか。
いずれにしてもごく限られた見込み客を探す相当な努力が必要になります。
地産地消を唱えて就農した狭い地域で需要を見つけようとすれば、見込み客を絞りすぎて経営が成り立つような顧客数に達しないかもしれません。
地域を限定すると経営として成り立たないなら、インターネットを活用して全国を視野に入れた集客が必要になるかもしれません。
特殊な農法で生まれた特殊な農産物。
特殊な農法を採用するということは、特殊な商品を扱うことになり、販売にも大きく影響してくるんです。
農業だって商売ですから、農産物が売れなければ商売とは言えません。
収入を得たければ、家族を養っていきたければ、育てた作物はお金に換えなければならないんです。
もちろん、ニッチな市場を狙うというのは戦略としては大事です。
競合がいないところで悠々と利益を上げていくブルーオーシャン戦略は魅力的です。
でもそれは、需要がしっかりとあって、そこを狙えば経営として成り立つことがあらかじめリサーチしてある、マーケティングがされているからこその戦略なんです。
自然栽培という魅力的な栽培方法があって、自分はその農法に惹かれて農業を始めるんです、というような戦略もなにもないのとは違います。
売る、ということを常に意識する必要があります。
農法を先に決めるのはかまいません。
でもそのときは、売り先が限定されることを頭に入れながら、なおかつそこに対してしっかりと営業していくことを意識してください。
売れてなんぼの商売。
農業も商売です。
農ではなくて農業をやりたいのであれば、販路の確保は避けて通れません。
それを忘れないでください。
多品目栽培でこんな間違いをしていませんか?
たくさんの種類の野菜を同時に育てる、かんたんに表現すれば家庭菜園を大きくしたような農業。
このような、いわゆる多品目栽培は、有機農業ではよくやられている方法なのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。
そして、多くの農家がやってるんだから自分にもできるだろうと、独学で、農家研修で、栽培の基本を学んでから実際に自分でやってみるのですが・・・
このときすでに、じつは大きな間違いをしています。
有機農業が慣行農業の5倍も儲かるって!?
有機農業者は、あまりお金の話をしたがりません。
「収入に魅力を感じて農業をしてるんじゃない。わずらわしい人間関係から解放されて、健康的な暮らしをしたいから有機農業の道を選んだんだ。」
と、収入は二の次だと言います。
だからこそ見えなくなっていた真実。それは、
有機農業はちゃんと稼げる
ということ。家族を養っていくことくらいは簡単に実現できます。しかも、栽培がうまいとかヘタとか関係ありません。誰でも実現できるものです。
ただし、条件があります。
それは・・・