生き残っていくためには農家も安全保障を考えるべき


安全保障と聞くとなにを想像しますか?
一般的に安全保障とは、
国家・国民の安全を他国からの攻撃や侵略などの脅威から守ること
とされています。
それはたんに武力・武装だけの話だけではなくて、エネルギー安全保障とか、食料安全保障とか、日常生活にも関わってくる大切な問題です。

たとえば食料安全保障でいえば、生存に不可欠な食料を安定して供給するための権利・保障のことです。
食料の多くを輸入に頼っていると、国内外に混乱があったときに生命を維持するための大切な食料を安定して確保することができなくなります。
国内だけでじゅうぶんな食料を確保できるように自給率を高めることもそうですが、一つの国だけではなく複数の国から輸入をすることで、緊急事態を避けることができるようになります。
全ての供給がストップする事態を避けられます。
小麦を輸入するときに、アメリカからだけじゃなくてオーストラリアからもカナダからも、輸入先を分散するということ。
ようはリスクを分散するということです。
どこかの国からの供給が断たれたとしても、影響を少なくしてある程度は安定を継続できるわけです。

 

農業経営における安全保障とは

こういったリスクの分散は、企業経営のみならず小さな農家であってもやっておくべき大切なことです。

以前の記事で、異常気象と言われるような天災をどこまで想定するのかという話をしました。
台風、干ばつ、津波・・・どこまで非常事態を想定するのか

それは、栽培において異常気象への対応をどこまでするのかというものですが、災害に対する備えだけがリスクを回避するものではありません。
農業をやっていると、様々な場面でいろんな事態に遭遇します。


耕耘機修理
栽培している作物が病気で収穫量が半減してしまったら?
耕すのに使っていたトラクターが故障して、修理に一ヶ月かかると言われたら?
契約していた大口のお客様から突然、契約解除すると言われたら?
安く調達していたさつまいも苗が、値上げされてしまったり購入できなくなってしまったら?

どれもふつうにあり得ることですが、もし起きてしまえばなんらかの被害は避けられません。
収入に大きく左右してしまうような事態も日常的に襲いかかってきます。

このショックをなるべく小さく抑えるために、リスクを分散するんです。
安全保障を考えるんです。

栽培で失敗しても出荷が止まらないように、多品目にして全作物が全滅したりしないように、出荷先からの要望に常に答えられるように多めに作付けしておく。
トラクターを修理している間も作業が止まらないように、レンタルできるところと繋がっておくとか、普段は畝立てで使っている管理機を耕耘機として使えるようにアタッチメントを持っておくとか。
売り先を複数たとえば10件以上もつことで、契約解除されたときのショックをなるべく小さく抑えるとか。
種や苗を買うときは普段からいくつかの業者にわけて買うようにするとか。


あたふたしないためにふだんから非常事態を想定しておくことが大切です。
それは余計に経費がかかったり労働コストがかかったり非効率なことかもしれないけど、、安全保障のための費用だと割り切ることも必要だと思います。

 

どんなに順調に長く経営を続けていても、たった一度のショックで離農に追い込まれることだってあるんです。
そのショックは、日常的に突然やってくるんです。
長く安定して農業をやっていきたいのであれば、大きなショックを抱えないように安全保障を考えておくべきではないでしょうか。

 

有機農家の安全保障政策

出荷場の様子
昔からある有機農家の一般的なスタイルは、多くの種類の野菜を育てて、それを家庭向けもしくは飲食店向けに個別配送をしていくものです。
たくさんの作物を同時に育てていくので、どれかひとつが病気や虫害などで被害をうけてしまっても、ほかの作物で補えば出荷に影響することはありません。
小額の契約を多くの家庭と結んでいるので、どこかの家庭が解約したとしても経営全体としては売り上げに大きく影響することはありません。
突然の解約で売り先のない作物が畑に残っている、ということもありません。

多品目で農場を管理していくというのは、ものすごく非効率なやり方なので生産性は著しく下がってしまいます。
多くの顧客に対して配送をするということは、事務的にも出荷作業的にも非常に手間がかかって無駄が多くなります。
でもそれは。
安全保障、リスクを分散するという点でいえばものすごく安定した経営なんです。
天候に左右されやすい、病虫害のリスクに遭いやすい有機農業だからこそ、経営を安定させるための仕組みを構築している、といってもいいと思います。
既存の有機農家は、そのようにして長く生き残っているんです。

有機農業を必ずしもお勧めするわけではありませんが、彼らの生き残り戦略は見習う点があります。
ぜひ参考にしてみてください。

 

 

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