無農薬栽培の本質は作物と正面から向かい合う姿勢

今の日本において農薬は危険ではありません。
国の厳格な安全基準にもとづいてつくられた農薬は、使用基準をちゃんと守っていれば農薬がかかった野菜であっても人に対する安全性は保証されます。

それでも。
たとえ農薬が危険ではないということが分かったとしても、無農薬で栽培することにこだわっている有機農家は農薬を使いません。
その理由は安全性うんぬん、ではないんです。
安全だから農薬を使わないで野菜を育てる、ということではなくて、農薬を使わない方法のほうが野菜を健康に育てるという目的を達成しやすいから、もっといえば無農薬栽培の結果として美味しい野菜を収穫できる可能性を高めるから、ということです。
 

農薬が悪いわけじゃない

キャベツ栽培そもそも農薬とはなにか、農薬の役割とはなにか、という話から始めなければ全体が見えてきません。
ひとくちに農薬といっても様々な種類があります。
虫を殺すための殺虫剤
草を枯らすための除草剤
カビや病気の発生を防ぐための殺菌剤
おいしく見せるためにつやをだすワックス
これまたおいしそうに見せるために色を付ける着色剤
種なしスイカや種なしブドウをつくるためのホルモン剤
収穫後に日持ちをよくしたり腐らないようにするための防腐剤
いろんな目的でいろんな用途の農薬が使われています。
そして、これらの農薬によって収穫量が上がったり見た目がよくなったり、長期間の保存が効いたりするようになりました。
このこと自体はほんとうに素晴らしく、文明が発達したことによる成果の一つだと思います。

そんな農薬に頼らないで野菜を育てようとするのはなぜでしょうか。
野菜が病気になって次々と枯れていくを止めることができない。
虫に葉を食べられてしまうのを、ネットをかけて防ぐなどの手間のかかる方法で食い止めなければならない。
野菜とは比べ物にならないほどの勢いで茂ってしまう草を、相当な時間を使って刈ったり抜いたりしなければならない。
農薬が危険であった時代を経て、安全だと言えるまでになった現代において、ふつうに考えれば無農薬で野菜を育てることにそれほどの意味はありません。

それじゃあ、わざわざ時代に逆行するかのような非効率なやり方を選んでいるのはなぜかといえば、
無農薬を求めている人がいるから。
それももちろんあります。
欲しい人がいるからそこに向けて商品を売っていく、というのは商売の基本ですから。
でもそれだけではありません。
無農薬で栽培をしていく、という別の理由があります。
無農薬栽培の本質、と言ってもいい部分です。
 

手に持たされているのはナイフだけ

キャンプ
たとえば、あなたがキャンプに出掛けるときのことを想像してみてください。
バーベキューができるようにアウトドア用のコンロを持って、調理に使う食材や調味料を持って、泊まるためのテントや寝袋を持って・・・。
テーブルや椅子、タープなんかもあったら快適そうです。
キャンプを快適に楽しめるようにありとあらゆる道具を揃えますよね。
キャンプとは不便を楽しむものだ、と考えている人でもテントや寝袋、食材や調味料などの最低限必要だと思われるものは持っていきますよね。

ナイフ
このときに、最低限の道具としてナイフしか持たされていないのが無農薬栽培なんです。
もしナイフしか持たされていない状態で、キャンプをしなければならないとしたら、あなたはどうしますか?
泊まるところを確保するために雨露をしのげる場所を探す必要があります。
材木などを拾ってきて簡易的な家をつくるかもしれません。
食材がないので山で山菜を採ったり川で魚を釣ったりします。
火がないからがんばっておこさなければなりません。
不便この上ない状況です。
こんな状況を乗り切るためにあなたが出来ることはひとつ、サバイバル技術を磨くことです。

農薬というのは言ってみれば多種多様なキャンプ用品のようなものです。
便利なものではありますが、それに頼っていてはサバイバルの腕は磨かれません。
つまり栽培技術は磨かれません。
手持ちの道具が少ない状態で、いかにして美味しい野菜を育てていくのか。
便利な道具に頼ることが出来ない環境において、どのようにしてちゃんとした野菜を収穫できるまでに仕上げていくのか。
農薬を使わないということは、土や野菜と真剣に向き合う姿勢が求められるわけです。
 

本質を知ったうえで有機栽培に取り組む

虫に食べられないようにするにはどうしたらいいのか、病気にならないようにするにはどうしたらいいのか、野菜と向きあい、土と向き合い、真正面から栽培に取り組むことで、野菜が健康に育ってくれるように手助けをする。
病気がでたらちゃちゃっと農薬をかけておさえる、もしくは病気が出ないように予防のために薬をかけておく、ということはできません。
このような環境で野菜を育てていくことが、結果として美味しい野菜ができあがる可能性を高めてくれます。
無農薬=美味しい
というのは違うと思いますが、無農薬で野菜を育てるという姿勢が、美味しい野菜を育てることにつながっているわけです。

無農薬で栽培したい。
無肥料で栽培したい。
いわゆる有機農家になりたいという人のほとんどが、
農薬は危険なものだから使うべきではない
化学肥料は環境によくないし畑の微生物にとっても悪影響だ
有機肥料とて安全を担保できるものじゃない
といった農薬・肥料を否定することからスタートしています。
有機農業をはじめようとするきっかけとしては悪くないとは思いますが、有機栽培をする本質は別のところにあることを理解してください。
野菜と正面から向き合うことで、自分自身の栽培技術を向上させることができて、結果として品質の高い農産物を生産することができるようになる。
このようなプラスの循環が有機栽培にあることを知ってください。
高品質の農産物をつくっていくために農薬は必要ない、という考え方が腑に落ちたとき、そこから本当の有機栽培がはじまります。

 

 

 

関連記事

  1. 消費者目線に立たなければ農法は意味がない

  2. 誰に売りたいかよりも農法を先に決めるとどうなるか

  3. 農法の呪縛から解き放たれて一流農家を目指そう

  4. 農薬を否定して安全性をウリにするような農家にならないで

  5. 自然農法、自然栽培・・・それは目的ではなく手段

  6. 自然農法、自然栽培を名乗る農家は二流以下