主食だからこそ守りたい、だから振り回される稲作農家

今から米農家になるのはオススメできません。

トゲのある言い方かもしれませんが、米農家がおかれている状況は厳しいと言わざるを得ません。すべての米農家が厳しいとまでは言いませんが、これから新規に参入するのはよほどの才覚か資金がないならやめたほうがいいです。これから10年で農家が激減していく中で、経営感覚のある超大規模米農家だけが生き残っていく業界に、あなたは飛び込むことができますか?

稲作信仰の弊害

なんといっても日本人は米づくりに思い入れが強い、強すぎます。呪縛レベルの強烈な思考です。何度言われたことか、「松本くん、米はやらんのか?」と。やりませんよ、山間地で稲作は厳しすぎますって。

やっぱり主食は偉大なんでしょうか。日本人の魂は稲作が原点なんでしょうか。農家なら米を作れ!とよく言われます。僕の就農地が田舎だからかもしれませんが米を作れてこそ農家として一人前みたいな空気はけっこう漂ってますね。

時代が進みコメ離れが加速していっても、相変わらずコメ信仰は強くて、需要が減っているのに供給量は減っていかない。むしろ放っておいたら増産しすぎな勢いで生産者がコメを作りまくってます。

これはアカン!と農水省が減反政策を打ちだしたのは高度経済成長期のこと。作付面積を制限したり、主食用米の代わりに飼料米とか小麦、大豆、牧草なんかへ転作させたりして、そこに補助金をちらつかせながら生産量を抑えてきました。これにより需要と供給のバランスをとってなんとか米価を維持してきたけれど、いつまでも補助金漬けはダメだろ!との財務省からの圧力に屈して2018年で減反政策は廃止。現在、名目上は減反など生産調整はしないので自由にやってくださいね、となってます。

ただ、本当に自由にやって供給がとんでもないことになったら困るので、飼料米、小麦、大豆、牧草などへの転作奨励金を手厚くするなど、主食用米の生産が増えないようにしっかりと対策を講じていたりして、なかなか抜け出せない補助金沼にハマったまま身動きがとれていません。

補助金漬けの稲作は果たしてこれからどこへ向かっていくのでしょうか。

本来は自分で制限すべき

減反?転作?ふざけんなよ。好きなように主食米をつくらせろよー!
たくさん作れば売り上げも増えてウハウハなんじゃ!
きっと米農家はこんなふうに憤っていることでしょう。

気持ちはすごく理解できますが、この考え方はかなり危険です。ここに日本農業の大きな問題があることを知っておくべきだと思います。
欲しい人がいるから作る。売れる分だけ作る。これはどの業界でも当たり前の考え方です。作りたいだけ作ればいい、そんな道理は通用しません。
TOYOTAは生産ラインのフル稼働で作りたいだけ自動車を生産してますか?
ユニクロは生産MAXで店に入りきらないくらい服を作りますか?
飲食店はお客さんが来てもないのに料理しまくってますか?
小売店はドン・キホーテもびっくりの山盛り陳列してますか?
製造業だってサービス業だって、売れるぶんだけ作ったり、並べたりしますよね。売れ残って在庫を抱えないように、販売が見込めるだけのニーズを予測して仕入れたり製造したりしてますよね。個々の事業者が需給バランスを考えて商売をしているから、市場全体としてもバランスがとれて利益が出るだけの価格帯を維持し取引されるわけです。

稲作農家はどうでしょうか。減反政策によって規模拡大が制限されていたのは先に書いたとおり。また、食糧管理法のおかげで農家は勝手に販売することができず国の管理下に置かれていたことは、農家にとって重い足かせだっただろうとは思います。とはいえ食糧管理法は1995年まで。そこから先は国の計画流通のほか自由に販売ができる自主流通も認められるようになっています。減反政策による制限もなく新食糧法により自主流通も認められている。作りまくって売りまくれる状況になりました。じゃあやります?

売れるならやったらいいです。これからどんどん小規模兼業稲作農家が減っていくので、10年もすれば空き農地を集約しやすくなるし競争相手も減ってるので大規模稲作しやすくなっていくでしょう。だけどコメの需要は右肩下がりに減り続けているので、少ないニーズを少数精鋭の大規模農家で取り合う構図が予想されます。

主食だからこそ守りたい、だから振り回される

この状況をみて「よっしゃチャンスや!」と感じるならぜひやってください。ただし、国の政策に振り回されやすいこと、大規模農家ほど補助金に頼った経営をしているのが稲作だということ、このあたりは知っておいたほうがいいと思います。

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