【経営開始型】農業次世代人材投資資金は誰がもらえる?最大750万円を受け取るには?

農業を始めたいという人に対しての補助金制度はいくつかあって、国が主導のものもあれば市町村が独自でやっている補助金制度もあります。
それらの中でも最もなじみがあり、多くの人が対象になりやすいものが
農業次世代人材投資資金
という制度です。

これは、基本的には非農家出身者に向けてのものですが、大きく2つに分かれます。
ひとつは新規就農する前の段階でもらう、つまりは研修中の段階に受け取る補助金で
準備型
と呼ばれています。
もうひとつは新規就農した後にもらえるもの、こちらは実際に農業をスタートしてから事業資金の一部として受け取ることができて、
経営開始型
と呼ばれます。
この2つを合わせた補助金制度が農業次世代人材投資資金です。

この制度を活用する意義

この制度は、もともとは民主党政権時代に始まったもので、その当時は青年就農給付金という名前でスタートしています。
2012年に始まって、そのあとマイナーチェンジを繰り返しながら2017年には農業次世代人材投資資金と名称を変更しました。
この名称変更したときに大きな変更はなかったので、なぜ名前を変えたのかわからないのですが、そこは国として補助金制度の在り方や方向性について何かしらの転換があったのかな?と推測する程度でいいと思います。
受給者として気にするところではありませんし。
大事なことは、これから農業をやろうと志している人が、どんな条件で受給が可能なのか?いくらくらいもらえるのか?ですから。

農業次世代人材投資資金で受けられる恩恵をざっくりと説明すると、年間で最大150万円を受給しながら新規就農の不安定な時期を下支えしてくれるため、アルバイトをしながら農業研修を受けるとか就農直後の収入が不安定なときに別の仕事を掛け持ちするとか、そのような負担を減らすことができます。
就農前の準備型では最長2年間、経営開始型では最長5年間、全期間で満額を受け取ると1000万円超えるような補助を受けることができます。
もちろん諸条件あって満額を受け取り続けられる人はそれほど多くないと思いますが、それでも農業一本で生活できるようになるまでの就農前後の期間で、下支えの資金を受けて研修や本業に集中できるという意味では非常に価値のある制度だと言えます。

非農家出身者の苦悩

次世代農業人材投資資金のそもそもの目的は、

青年の就農意欲の喚起と就農後の定着を図るため、就農前の研修期間(2年以内)及び経営が不安定な就農直後(5年以内)の所得を確保する給付金を給付します。

というもので、主には非農家出身者に向けた制度です。
非農家出身者は、農家である実家の後を継いで農業をやる一般的な世襲農家にくらべると条件がかなり不利なところからスタートします。
実家が農家であれば。
先祖伝来の土地、農業技術、農業機械などの設備、既存の販路、地域での認知など。
すでに農業をしている親が持っているものを、そのまま受け継いでスタートすることができます。
これらのアドバンテージは非常に大きく、世襲農業が当たり前の産業なのであまりありがたみを感じる人はいませんが、親の支援を受けることでかなり優位に新規就農をスタートさせることができます。

それが非農家出身者にはない。
ほぼゼロの状態です。
だからきつい。
でも他産業から積極的に優秀な人材を入れていかないと農業全体は活性化・発展していきませんし、それを分かったうえで国は非農家出身者を支援しようと制度を立ち上げてくれています。
これを活用しない手はない、と言えるでしょう。
だから。
安易にもらうことで独立・起業における覚悟や粘り強さを失ってしまう可能性はあるものの、積極的に活用することで不利な非農家出身者であっても農業経営を軌道に乗せやすくなるはずです。
補助金の使い方によっては非常に有効ですので、甘やかしだ!と一概に制度を否定することはできませんし、もし受給したいと考えているのであれば有効に使ってもらえればと思います。
だってそれ、税金ですから。

制度の変遷

制度の詳しい内容については農林水産省のホームページをご覧いただくとして、ここでは簡単にかみ砕いて説明をしていきます。
まずは、給付金を受けるための交付要件について。

(1) 独立・自営就農時の年齢が、原則50歳未満の認定新規就農者であり、次世代を担う農業者となることについての強い意欲を有していること

給付金制度がスタートした2012年からずっと、対象年齢は45歳未満でしたが2019年度よりその年齢が50歳未満に引き上げられました。
その意図するところはわかりませんが、これまで受給対象から外れていた人にも権利が与えられたわけですから、積極的に活用してもらえればと思います。
ただ、過去の受給実績を見るかぎりでは準備型は10~30代の受給者がほとんどを占めており、経営開始型ではその層が高齢側へシフトしている傾向があります。
ということは、経営開始型で対象年齢を引き上げたことには意味がありそうですが、準備型に関していえば恩恵を受ける人はかなり少ないことが予想されます。

(2) 独立・自営就農であること

いわゆる農業法人で雇われて働くという形ではなく、農家として独立することが条件になります。
また、農地の借用や所有について自分名義であること、機械や施設が自分名義であること、出荷や資材購入でも自分名義で取引されていること、通帳や帳簿の管理も自分名義であること、なども条件になっています。
これらは、非農家出身者であればなにも考えなくてもさまざまなことが自分名義になるので、気にしなくて構いません。
なぜ名義について触れられているかというと、実家の農業を継承する場合でも受給できるようにするため。
もちろんすべてを対象にするわけではありません。
が、親とは独立した経営を自分名義でやるのであれば独立就農だと認めましょう、と受給資格を広げるためにこのような記述がされています。

(3) 青年等就農計画等が5年後には農業で生計が成り立つ実現可能な計画である

これはいわゆる事業計画とか経営計画と呼ばれている類のもので、根拠のある数字と実現可能性を示した計画書の提出が求められています。
書類の作成が面倒だと思われるかもしれませんが、そもそも新事業を立ち上げるときには事業計画はあって当然のものですし、計画は航路を示す羅針盤のようなものです。
事業計画を立てずにスタートすることは無謀だとも言えるわけで、面倒な計画の提出が義務付けられているのはむしろラッキーではないでしょうか。

(4) 人・農地プランへの位置づけ等

簡単に言えば、就農する地域の農業者メンバーとして名前を連ねるということです。その地域で中心となっていく経営体はどこか、農地や人をどのように集積していくかなど、地域農業を潤滑に動かしていくためのプランになっています。経営開始型を受給するときには人・のうちプランへの登録が義務付けられています。

(5) 生活保護等、生活費を支給する国の他の事業と重複受給でなく、かつ、原則として農の雇用事業による助成を受けたことがある農業法人等でないこと

読んで字のごとく、給付金制度のほかに国から補助金のたぐいを受給していないことが条件です。

(6)原則として青年新規就農者ネットワーク(一農ネット)に加入すること

一農ネットとは、新規就農者が農林水産省とつながるためのもので、おもにはメールマガジンなどで農林水産省から有益な情報提供を行っています。
新規就農関連事業に関する情報、就農に関する交流会の開催案内、農業施策の情報などが月に2回程度メールマガジンとして配信されます。

実際の給付額はどれくらいなのか

では実際にどれくらいの給付金が受け取れるのかをグラフを示しながら説明していきます。
青年給付金制度という名前で2012年に始まってから3年間は、非常に分かりやすい給付の形をとっていました。
制度資金以外の所得(農業による所得はもちろん、それ以外の所得も含む)が250万円を超えない限りは、一律で150万円を支給。
250万円を超えた年から給付金を打ち切る、というものです。

たとえば、制度資金以外の所得が100万円だったとき、給付金は満額の150万円を受け取れます。
この場合は100万円+150万円=250万円がその年の収入になります。
制度資金以外の所得が249万円でも給付金は150万円です。
この場合は249万円+150万円=399万円が収入になります。

ところが、制度資金以外の所得が250万円を超えたとき、給付金はストップするので
250万円+ 0万円=250万円
と手元に残る収入は大幅に落ち込みます。
この落差が非常に大きく、給付金を一年でも長く受け取れるよう農業収入が250万円を超えないように操作する人が出てもおかしくない状況だったため、給付の仕組みが2015年から改正されました。

このグラフの横軸は前年所得、縦軸は制度の資金を含めた所得。
赤線で示されているところが実際に手元に残る収入になります。
わりとなだらかに推移していることがお分かりいただけるでしょうか。
ごく簡単にいえば、制度資金以外の所得が100万円までは従来と同様に給付金150万円が支給されます。
100万円+150万円=250万円
これより制度資金以外の所得が増えていく場合は、
(350万円ー前年の所得)× 3 / 5
という計算が適用されて、資金を含めた所得が上限350万円に収まるように給付金の額が小さくなっていきます。
この形であれば、農業収入が少ないころの苦しい時期を給付金が下支えしてくれますし、5年間の給付金受給期間中とくに収入制限をかけることなく経営を推し進めることができます。
よい改正だったのではないでしょうか。

個人的には補助金制度なんてないほうがいいと思いますが、やっぱりそうは言っても就農当初のお金がない時の苦しさは本当に大変なので、家族が崩壊するとか夫婦喧嘩のもとになる
とか、金銭トラブルで人生が狂うくらいなら貰っちゃった方がいいのかなと思います。
とくに非農家出身者は、実家が農家であるこせがれ組に比べると持っているものが圧倒的に少なくて不利ですので、必要な方にうまく活用してもらえればいいかなと思います。

150万円の重み

ただ、ひとつだけ心にとめておいてほしいことがあります。
150万円という金額は本当に重たいです。
補助金だからもらえるものはもらっておこう、という精神は理解できますがそもそも税金だということを忘れないでください。
そして、
他業界より農業界は、もしかしたら金額の重みが違うかもしれません。
というのは、農業者の時給は統計データとして農林水産省のホームページに記載されていて。
探してもらうとすぐ見つかりますが、農業全体さまざまな作物・品目など含めて時給を計算していくと、農業者ひとりあたり時給1000円前後ぐらいなんです。
もちろん品目によっては1000円を大きく超えるものもありますし、最低賃金水準を下回る品目もあったりします。
経営規模によっても時給は大きく変わりますし。
栽培面積が小さい場合はやっぱり時給は低くなる傾向が強く、これが10ヘクタールとか20ヘクタールといった大規模農業だと時給はどんどん高くなっていく傾向にあります。

ただ、平均するとやっぱり農業全体では時給1000円前後ぐらいというのが現実です。
時給1000円ということは、150万円稼ぐためには単純に1500時間働かないといけないということ。
1500時間働いてようやく150万円の所得があるのが農業の現実です。

じゃあ、
1500時間はどれくらいかというと、サラリーマンが1年間残業しないで1日8時間
、週40時間働いたとすると年間だいたい2000時間くらい働くことになります。
2000時間より少ないとはいえ、1500時間働くのと同等の金額を書類等をちょいちょいと書くだけでもらえてしまう制度なわけです。
これはかなり大きいですよ。
そんな甘い汁に頼り切って5年過ごして。
じゃあ補助金が打ち切られたあと、本当に頑張れますか?
その後も10年20年と頑張って農業を続けられますか?
というようなところは、やっぱり自分自身ちゃんと考えて欲しいと思います。

これは覚悟の問題です。
お金がなくてもなにがなんでも食らいついて、なんとか自分で稼げるようになる!
という覚悟を持ってやってる人と、
まぁ最初の5年間苦しい時に下支えしてもらって、苦しいのを軽減しながら頑張っていけばいいや
という人と、5年過ぎた後の歩み方や心構えは全然違ったものになる可能性があります。

それを理解したうえで、150万円の重みをしっかりと噛みしめたうえで、それでもやっぱり欲しいと思うなら、もちろんもらってください。
ただそれは税金だということを忘れないでほしいと思います。

というわけで。
農業次世代人材投資資金には準備型と経営開始型があって、準備型には研修
先をどこにするかによって受給できない可能性がありました。
けれども経営開始型は、自分自身が条件に当てはまりさえすれば受給できます。
もちろん審査はありますが。
行政側の審査があって、この人にあげていいかなという判断はされますが、基本的
に計画さえしっかりしていて条件があっていればもらえる制度です。
だからといって全員もらってくださいという話ではありませんが、その使い方さえ間違わなければアリだと思います。
生活費は自分でなんとか稼ぐぞ!
農業収入で一日でも早く軌道に乗せるぞ!
という気概で、たとえ補助金がなくてもやってやるという気持ちがあればこの制度がすごく活きてくるので、税金であることを理解したうえで使える方にはぜひ使ってもらったらいいかなと思います。

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それは・・・

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