農業を始めようと考えて、調べていくうちにいろいろと不安な要素が挙がってくると思います。 なにを育てたらいいのか。 どこで就農しようか。 栽培技術はどうやって習得するのか。 販路はどうやって確保するのか。 ちゃんと家族を養っていけるだろうか。
いくらくらい初期資金が必要なのか。 農業研修は必要か、研修先をどうやって選ぶのか。 どこに相談したらいいのか。
これらの不安要素をひとつひとつクリアしながら、着実に新規就農に近づいていくことが大切です。今回は、これらの不安要素のひとつである収入面について書いていきます。
農業で食べていけるのかどうか。 農業で生計を立てていけるのかどうか。
家族を路頭に迷わせたくない。
このような不安は、他に安定した収入源がないかぎりほとんどの人に当てはまる悩みです。この不安をある程度は解消しておかないと、自分自身に迷いが生じるばかりか家族や周りにいる親族・友人などにも不安が広がってしまいます。
まずは農業の現状を知ること。自分が稼げるかどうかの前に、先輩農家はどれくらい収入を得ているのか。そこからです。実際どのくらい稼げるのでしょうか。
目次
単位面積あたりの農業所得
ひとくちに農業といっても分野が広すぎて話が進みません。 米なのか大豆なのか、野菜なのか、酪農なのか、果樹なのか。 品目を選ぶだけでも多種に渡るため農業という切り口では結果が出ません。
さらに、野菜といっても大根をやるのか、ジャガイモをやるのか、小松菜をやるのか。 品目によってもまったく様相が変わってきます。
経営規模についてもばらつきがあります。30aくらいで小さくやっている農家もあれば、100haもの大面積でやっているところもあります。ひとくちに野菜といっても出てくる数字が違いすぎて平均を見ることすら意味がなさそうです。
ということで指標が必要です。売り上げがどれくらいあって、そこから経費を差し引いたいわゆる農業所得がどれくらいあるか。ひとまずみなさんが知りたいのは農業所得=収入ですよね。これが手元に残るお金であり、生活していくために必要なお金です。
収入を考えていくにあたっては面積にかかわらず、栽培している品目にもよらない比較しやすい指標が必要です。それが単位面積あたりの農業所得です。一定の面積(農業では10aという単位を主に使用)において、どれくらいの所得が得られるのか。これがわかればひとまずの目安になります。単位面積あたりの所得が分かれば、必要になる面積が見えてくるからです。
(画像参照:農林水産省大臣官房統計部 平成17年産品目別経営統計)
たとえば統計によれば、大根を育てると10aあたり約16万円の農業所得になります。あなたがもし大根農家になりたくて、年収で500万円くらい欲しいと思えば
500(万円)÷16(万円/10a)=31.25
10aの31.25倍の面積が必要だと分かります。
つまり、312.5a=約3.1ha
3ヘクタールくらいの栽培面積があれば、目標とする年収に届きます。
労働1時間当たり農業所得
さて、ここでもうひとつの指標が必要になります。3ヘクタールの面積で大根を育てていくのにどれくらい働けばいいのか。労働時間という指標です。
これも統計が出ているので参考にすると、10aあたりで116.74時間となっています。つまり10aで大根を育てると約117時間くらいの労働が必要になるということです。ということは、年収500万円を稼ぐためには面積が3.1ヘクタールほど必要で、そのためには労働が117×31.25=約3650時間ほど必要になるということです。一年中365日休みなく、1日10時間ほど働いたらこのくらいの労働時間ですね。
年中無休で10時間労働を続けて年収500万円。夫婦でやれば週休2日の1日8時間労働くらい。これが平均的な大根農家の実態です。
もし仮にこの数字をみて大根農家になりたい!と思ったとして、ひとつ注意すべきことがあります。農水省が出している統計は、経験豊富な既存の農家の平均であって、新規就農者がはじめから出せる数字ではないということに注意してください。簡単にいえば、あなたがもし新規就農して大根農家になったとしても、年中無休で10時間労働を続けて年収200万円にしかならないかもしれない、ということです。
さてここで、数字に強い方は気づいているはずです。こんなに回りくどい計算をしなくても時給を見ればいいじゃないかと。10aあたりの農業所得と労働時間が出ているんだから、先に時給を計算しておけばいいじゃないかと。
その意見、正しいです。年収を考えるうえで農業所得と労働時間という二つの指標が大事なので順序立てて説明しただけであって、本当に必要な指標は時給なんです。
農水省の統計にもしっかりと書かれています。”家族農業労働1時間当たり農業所得”という回りくどい記述で。上記の大根でいえば1357円。時給1357円です。
1時間働けば1357円の収入なんだから500万円欲しければ約3650時間働けばいい。という計算ですね。この時給が、経験を積んだ平均的な大根農家の数字です。
これをふまえてグラフを見てみると、キャベツが時給2580円という突出した数字を叩き出しています。これは群馬県嬬恋村や長野県の中信地域や愛知県の渥美半島など大産地化されているところがあるから出てくる数字で、よそからの新規就農者が入り込む余地がない地域です。
よく「住み込みアルバイト募集 時給1000円」というキャベツ産地へのアルバイト求人が出ていますが、時給1000円で人を雇えるということは農家自身の時給がそれを大きく上回っているということを如実に物語っています。
そのほかの野菜についてはニンニクの時給1666円からそれ以下の数字が並んでいます。時給1000円~1500円・・・朝から晩まで働いてもラクにならず、という農業のイメージからすると高く感じますか?
サラリーマンの時給
ここで冷静になってください。あなたの今の仕事は時給に換算していくらですか?もしアルバイトをしていて1000円程度ということであれば、農業を仕事にすればもっと稼げるようになるかもしれないということです。
サラリーマンであれば、年収(総支給額)を労働時間で割れば時給が出ると思います。が、会社組織の運営上あなたに支払っている給料にプラスして交通費や有給休暇や退職金などの福利厚生、厚生年金であれば会社負担分などがありますから、計算して出てきた時給を2倍するくらいが妥当かと思います。
たとえば。毎月の給与明細から総支給額を拾い上げ、賞与も計算に入れて、年収(総支給額)が400万円だったとします。労働時間も合計してみると2000時間だった。ということは400万円÷2000時間=時給2000円
年収を労働時間で割ったら2000円だったとしたら、じつはあなたの労働にはその2倍の4000円に値する価値があるということです。
そんな時給の仕事をやめてまで、農業の世界に踏み込めますか?これは決して脅しているのではなくて、あなたに覚悟を求めているだけです。収入ではないところに農業の価値を見出して就農を考えているのかもしれないけれど、それでも生活をしていくために、家族を支えるために収入が必要なのは間違いありません。農業における収入以外の魅力は、転職するに値するものですか?よーく考えてみてください。
上記の農水省統計をもとにした数字は、農薬を使用して農協出荷するようないわゆる慣行農業のデータです。新規就農希望者の8割以上が興味をもっている有機農業ではどのような数字が出てくるのか、これは次のリンクをご参照ください。非情とも言える現実がそこにあります。
平均から飛び抜けた農家は何をしているか
最後にちょっと希望の持てる話をしておきます。ここまで書いてきたように、ごく一般的な農家になれば時給1000円前後の厳しい現状が待っていますが、それはあくまでも
平均的な農家
の話であって、なかには飛び抜けて優秀な経営をしている農家がいることも事実です。年収1000万円とか、時給換算すると5000円あるとか、週休3日だとか。サラリーマンでは味わえない豊かな生活を送りながらも、収入が伴っている幸せな暮らし方を実現できている農家がいます。
そういう農家は何が違うのか。経営規模によって答えは違いますが、家族でやっているような小さな農家の場合でまとめると次のようになります。
利益の出る仕組み(ビジネスモデル)を作り、目標を定め、効率化・機械化を進め、価格決定権を持っている。
わかりにくいと思いますのでもう少し噛み砕くと、
1.生産から流通・販売まで関わることで利益率を高めている
2.収入などの目標を定めて日々の行動を細分化している
3.機械化を進めて資材をうまく活用している
4.労働がコストであるという意識を持ち、効率化を進めている
5.直販するなど価格決定権を持っている
このように表現できます。つまるところ、農家になるのを事業としてとらえて農業経営をすることが第一歩なんですが、このへんの話について詳しいことは当サイトでたくさん書いていますので、
に立ち寄っていただくなどして気になる記事を読んでいただければと思います。
多品目栽培でこんな間違いをしていませんか?
たくさんの種類の野菜を同時に育てる、かんたんに表現すれば家庭菜園を大きくしたような農業。
このような、いわゆる多品目栽培は、有機農業ではよくやられている方法なのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。
そして、多くの農家がやってるんだから自分にもできるだろうと、独学で、農家研修で、栽培の基本を学んでから実際に自分でやってみるのですが・・・
このときすでに、じつは大きな間違いをしています。
有機農業が慣行農業の5倍も儲かるって!?
有機農業者は、あまりお金の話をしたがりません。
「収入に魅力を感じて農業をしてるんじゃない。わずらわしい人間関係から解放されて、健康的な暮らしをしたいから有機農業の道を選んだんだ。」
と、収入は二の次だと言います。
だからこそ見えなくなっていた真実。それは、
有機農業はちゃんと稼げる
ということ。家族を養っていくことくらいは簡単に実現できます。しかも、栽培がうまいとかヘタとか関係ありません。誰でも実現できるものです。
ただし、条件があります。
それは・・・