【解説】専業農家と兼業農家。その分類はもう時代遅れ?

専業農家と兼業農家。これらの用語を聞いたことあるでしょうか。おそらくどこかしらで耳にしたことのある用語だろうと思います。農業に興味があってもなくても、日常生活の中で使われることがあるはずです。

そして、その用語の意味もなんとなく理解していると思います。正確ではないにしても、専業と兼業という単語から推測することは可能でしょうし。昭和の時代からずっと使われている専業農家と兼業農家という分類指標。もちろん今でも使われているのですが、これとは別の分類指標がある時期から用いられるようになりました。

販売農家と自給的農家

なぜ新しい分類を作ったのか、その分類を使って国は何をしようとしているのか、以前からある分類では何が問題だったのか。そして、農業者として新しい分類による統計データを知ることに意味があるのか、どのように活用していけばいいのか。など単に「新しい分類ができたんだ、へぇ~」ではなく前向きに状況の変化を活かしていくためのヒントにしていってほしいと思います。ぜひ最後までご覧ください。

農家の定義

新しい分類指標である販売農家と自給的農家について解説をする前に、一つだけ大前提として知っておいてほしいことがありますので、それを先に説明していきます。これを知らないと、いくら詳しく解説をしてもぼんやりとしたものしか得られない可能性が高いので。
知ってほしい大前提、それは「農家」という言葉の定義です。

農家・・・耕作面積が10a以上もしくは農産物の販売金額が15万円以上の世帯

耕作面積がどれくらいとか販売金額がいくら以上とか、その辺は覚えなくてもいいんですが農家は”世帯”を表していることだけはしっかりと覚えておいてください。●●家という言葉はたくさんあると思うんですが、農家はどうも特殊な扱いをしているらしく、たとえば格闘家、芸術家、音楽家、書道家、園芸家、空手家などを想像してもらえればわかるとおり、ほとんどが個人を指している言葉です。このように農家は個人ではなく、なぜか世帯を表している点に注意しておいてください。

専業農家と兼業農家

専業農家、兼業農家という分類は昭和の時代からずっと使われています。

専業農家・・・世帯員のなかに兼業従事者(1年間に30日以上他に雇用されて仕事に従事した者または農業以外の自営業に従事した者)が1人もいない農家

これは簡単にいうと、世帯の中に農業以外で収入を得ている人がいない農家のことです。

兼業農家・・・世帯員のなかに兼業従事者が1人以上いる農家

世帯の中にひとりでも農業以外から収入を得ている場合、すべて兼業農家になります。たとえば夫が専業で農業をやっていたとして、妻がパートで働きに出ていればその世帯は兼業農家になります。農業で5億円の収入があって妻のパート収入が100万円だったとしても、その金額に関係なく兼業農家になります。また、一人で複数の仕事をしている場合も農業以外の収入を得ているなら兼業農家です。

さらに兼業農家の中には2つの分類があって、第一種兼業農家と第二種兼業農家に分けられます。農業所得(収入)のほうが農業外所得よりも大きければ第一種、農業外所得のほうが大きければ第二種、となります。

専業農家と兼業農家、このような分類指標で昭和の時代からずっと統計情報を得てきたわけですが、時代の変化とともにいくつかの問題点が出てきました。それが高齢化問題と後継者不足の問題。

昭和の時代を経て平成に移っていく中で、農業者の平均年齢はずーっと上り続けています。2019年現在ではもう70歳前後ぐらいになっているはずです。そんな状況で専業農家・兼業農家という分類から統計を見ても、国として農水省としてどんな対策をとっていけばいいのか、どこにどんな予算を充てて、どんな補助金・助成金を出せばいいのか分からないんです。

統計情報は活用しなければ意味がありません。目の前にある問題を浮き彫りにして、問題を解決するための指針を作るためにも、正確な統計データが必要でしょう。だからこそ専業農家・兼業農家という分類をずっと活用してきているわけですが、それだけでは時代とともに移り変わっていく新しい問題には対処できなくなっているのが現状です。

この点でいえば後継者不足問題も同じ。問題があることは間違いないのだけれども実際の詳しい状況はどうなのかが見えてこない。高度経済成長のなかで第二次産業・第三次産業へ働き方が変わっていき、女性の社会進出や共働きが進んでいくことで、世帯として兼業なのは当たり前の時代になっています。そのような状況で専業農家、兼業農家という分類では、時代に合わせた施策を生み出すことが難しくなってきたわけです。

販売農家と自給的農家

そこで考えられたのが新しい分類。1995年に作られたものですが、販売農家と自給的農家の2つに分類しています。

販売農家・・・経営耕地面積が30a以上又は農産物販売金額が50万円以上の農家

耕地面積が30a以上あれば販売農家ですし、もし面積が小さくても販売金額が50万円以上あれば販売農家になります。施設栽培や畜産など小面積で成り立つ農業もありますから、このような基準になっているのかもしれません。

自給的農家・・・経営耕地面積30a未満かつ農産物販売金額が年間50万円未満の農家

一方の自給的農家は、販売農家の条件を満たしていない農家。販売金額が50万円だとおおざっぱにみて農業所得が20万円程度になる可能性が高く(利益率40%)、サラリーマンが副業したときに確定申告を求められる目安が収入20万円ですから、農産物販売金額が年間50万円未満の農家を自給的農家とするのは基準としては妥当でしょう。

専業農家・兼業農家は世帯の構成員の働き方、農業外所得があるかどうかで分けていましたが、販売農家・自給的農家は販売金額つまり収入で分けています。これはつまり、国が予算の振り分けをしたり補助金を交付したりするときに、ちゃんと稼いでいる農家へ配分したいという思惑があるからでしょう。日本の農業を強くしたい、日本の農業を支えてくれる精鋭農家を支援したいという意図が、新しい分類から読み取れます。

販売農家は、さらに3つに分類されています。
主業農家・・・農業所得が主(農家所得の50%以上が農業所得)で、65歳未満の農業従事60日以上の者がいる農家
準主業農家・・・農外所得が主で、65歳未満の農業従事60日以上の者がいる農家
副業的農家・・・1年間に60日以上農業に従事してい65歳未満の世帯員がいない農家

主業農家と準主業農家は、第一種兼業農家と第二種兼業農家とほぼ同じです。65歳未満の構成員がいるかどうかという条件はつくものの、農業所得と農業外所得の比率によって主業か準主業かを分けています。

副業的農家は、65歳未満の構成員がいない農家。65歳という年齢はおそらく年金受給年齢と関係が深いと思われますが、年齢によって分類しているのは後継者の有無を明らかにしたいという意図があるからでしょう。おもしろいのが、副業的農家では65歳という年齢によってのみ分類されているため、どれだけ多くの農業所得があっても若い構成員がいなければ副業的に扱われてしまうという点。実際、統計情報を見るとはっきりしているのですが、2017年のデータで主業農家の平均時給は1432円、準主業農家が298円なのに対して、副業的農家は624円となっています。時給の高さは生産性の高さに直結することから、副業農家と言ってもいい準主業農家よりも高時給になっている副業的農家の、ベテラン色が現れているのが非常におもしろい。

まとめ

というわけで今回は、時代の変化に合わせて統計分類項目も変わっていくことをお伝えしてきました。国の方針、思惑、方向性などを考えながら、実際に出てきた統計を見てみると新しい発見がありますし、国から支援されるような農家になるためにはどんな農業をやるべきなのか、自分自身の方向性も考えることができます。予算が多く振り分けられる分野で農業をやれば、農業経営もずいぶんとラクになりますし、補助金や助成金をうまく活用していきたいと考えているなら、統計データを読み取ることで見えてくるものもあるでしょう。

現場に立って生産していく農家だからこそ、広い視野で高いところから俯瞰する目を持っておくことが重要で、日本の農業全体が見えてくれば自身の農業経営がどこに進んでいくべきか見えてくるはずです。今回解説した分類指標がその一助になれば幸いです。

多品目栽培でこんな間違いをしていませんか?

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