有機農業においてよく見られる栽培スタイルが、
多品目栽培
です。
大規模でひとつの作物をドーンと育てるのではなく、多種類の野菜や米などをすこしずつ生産するという形。
一言で表現するなら家庭菜園を大きくした感じ。
有機農業で昔からとられているスタイルで、わりと認知されているなぁというイメージもあります。
野菜を20種類とか30種類、多いところだと100種類やっているなんて農家もいたりします。
じつはこれには理由があって、
直販に都合がいい。
生物多様性を圃場内につくりだす。
連作回避のため。
といった点で多品目栽培を選んでいるという有機農業ならではの事情もあります。
今回は。
この多品目栽培において、どこまで品目を増やしていいのか。
たとえば野菜全般を育てて、米や麦も育てて、さらには養鶏も手掛ける。
といった多角化はよくある形態なんですが、あれもこれも手を出してしまうことの弊害はないのか。
このあたりの話になります。
ぜひ最後までご覧ください。
目次
私が稲作をしない3つの理由
お客様からよく聞かれる質問があります。
野菜だけじゃなくお米もやらないんですか?
と。
お米は別のところから買ってるけどいまいちいいところがないし、お米も野菜も同じ農家から買えたら安心だ。
というご意見です。
たしかに野菜もお米もやっている農家はいます。
さらに養鶏もやっている農家がいるくらいです。
多種類の野菜を育てているんだから、そこにお米を加えるくらいたいしたことないでしょ。
という消費者目線でのご意見なのかもしれません。
そして。
お米も栽培すれば売れると思います。
私がやるとすれば有機栽培でしょうから、直販ということもあり高値で売れるでしょう。
ちゃんと利益も上がる可能性はじゅうぶんにあります。
でも私はやりません。
野菜だけです。
けっこう要望がありますし、作ったぶんすべてを売り切ることはできると思います。
でも野菜だけしかやりません。
これにははっきりとした理由があります。
ひとつは栽培面。
稲作(土地利用型の穀類)は野菜を育てるのと似ているようで、けっこう違います。
栽培の行程はもちろん違いますし、使用する機械だって違います。
そして恐ろしいことに稲作での農繁期(忙しい時期)が野菜とかぶってしまうんです。
田植えの時期と収穫の時期。
この時期は野菜を多品目で栽培するときにも忙しくなります。
もうひとつは立地。
私が営農している地域は、いわゆる中山間地と呼ばれているところです。
いわゆる山だらけ。
稲作というのは機械化がかなり進んでいて、大面積でドドーンと栽培するのに向いている品目です。
山間地の小さな農地がたくさん集まった段々畑のようなところでは、効率が悪くてやってられないんです。
さらに心理面。
お米は日本人の心です。
日本人の主食であるお米をつくらないで農業やっている意味があるのか!
というような空気を感じることがあるんですが、私はそれほどお米に対する思い入れがありません。
自分で育てたお米を食べたい。
という欲求があまりありません。
このように、稲作に手を出さない理由が3つあるので私はやりません。
ただたんに個人的な理由でやらないだけですので、やっちゃいけないということではありませんし、やりたいならやればいいと思います。
ですが。
野菜を育ててお米も育てる、さらには養鶏も。
といった多角化について、ビジネスの世界ではひとつの答えを提示しています。
選択し、そして集中する
ビジネスの世界には
選択と集中
という考え方があります。
事業をやっていくときにはあれこれ手を出すのではなく、なにかひとつに集中していくべきだ。
という考え方です。
野菜なら野菜、稲作なら稲作、果樹なら果樹。
あれこれ手を出すのではなく、どれかに絞って集中する。
小さな農家は経営資源に乏しいことが多いので、野菜用の農業機械を揃えてさらに稲作用の農業機械を揃えるなんて投資はできません。
野菜栽培をしながら稲作栽培をする、という労働分配も難しい。
まずはどれかに集中して結果を出す、競争に勝つことが重要だ。
というのが選択と集中です。
たとえばスポーツで例えてみても分かります。
プロ野球の世界では。
投手は投手に専念し、野手は野手に専念します。
それは。
投手に専念しなければ技術が中途半端になってしまい、プロとして第一線で戦っていくことができないからです。
野手に専念しなければ、プロとして成績を残していくことができないからです。
高校生のときはエースで4番、投げても打っても超高校級なんて人がいますよね。
そんな人たちの集まりがプロ野球なんです。
生き残っていくためには投手としてやっていくのか、野手としてやっていくのか、選ばなければならないということです。
ごくまれに。
大谷翔平選手のように二刀流で投手も野手もやっていく例がありますが、99%以上は投手か野手かを選択し、それに集中します。
農業でも。
選択と集中を考えてみるべきだと思います。
品目を選択し、それに集中する。
どこまで絞っていくのかは人それぞれですが、
野菜なら野菜
穀類なら穀類
畜産なら畜産
と、機械や設備などの投資対象が異なるようなら絞ったほうがいいでしょう。
ひとつひとつが中途半端になって競争に勝てない。
そんなことがないようにするべきです。
経営資源を分散できるかどうかがカギ
田舎暮らし思考が強い人にとっては、
米も野菜も肉も、できるかぎり食べ物は自分の手で育てていきたい。
という気持ちを抑えられないと思います。
やりたければやればいいです。
止めません。
でも。
選択と集中。
そういう考え方があることは覚えておいてください。
実家が農家で機械類は揃っている、栽培技術もある程度は確立されている。
というような恵まれた環境で新規就農できる人であれば、多角化に乗り出してみることもいいでしょう。
でも地盤がない、お金もない、技術もない、そんな非農家出身の完全新規参入組であれば最初はなにかひとつのことに集中することをお勧めします。
ある程度、何年かやっていくうちに経営が安定してきたら、そのときは果樹でもシイタケでも牛でも馬でもなんでもやってみればいいと思います。
参考になれば幸いです。
多品目栽培でこんな間違いをしていませんか?
たくさんの種類の野菜を同時に育てる、かんたんに表現すれば家庭菜園を大きくしたような農業。
このような、いわゆる多品目栽培は、有機農業ではよくやられている方法なのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。
そして、多くの農家がやってるんだから自分にもできるだろうと、独学で、農家研修で、栽培の基本を学んでから実際に自分でやってみるのですが・・・
このときすでに、じつは大きな間違いをしています。
有機農業が慣行農業の5倍も儲かるって!?
有機農業者は、あまりお金の話をしたがりません。
「収入に魅力を感じて農業をしてるんじゃない。わずらわしい人間関係から解放されて、健康的な暮らしをしたいから有機農業の道を選んだんだ。」
と、収入は二の次だと言います。
だからこそ見えなくなっていた真実。それは、
有機農業はちゃんと稼げる
ということ。家族を養っていくことくらいは簡単に実現できます。しかも、栽培がうまいとかヘタとか関係ありません。誰でも実現できるものです。
ただし、条件があります。
それは・・・