タネの安全性 雄性不稔(ゆうせいふねん)とはなにか

以前の記事で、作物のタネには固定種と交配種(F1)があって、どちらが安全でどちらが危険だということではなく、目的に合わせてタネを選べばいいという話をしました。

品種選びでのポイント 固定種と交配種(F1)

ここで、交配種(F1)の安全性について疑問をもつ人が出てきます。
雄性不稔(ゆうせいふねん)ってどうなの?
かなり危険だって聞いたよ。
このような疑問です。
農業者であれば知っていて当然という話でもなくて、食の安全について特に敏感に反応する有機農業の世界に従事している農業者なら知っている確率が高いという話です。
農業者であっても知らない人はたくさんいます。
おそらく雄性不稔の問題について気にされている人は、野口のタネの野口勲さんの著書を読んだか講演を聞いたか、そこから派生した人たちの話を聞いたか、そのような経緯で危険性が伝わっているんだろうと推測されます。

新規就農を検討されている人の多くは有機農業に興味を持っているので、食の安全について気にされているんだと思います。
タネの安全性について触れるときには必ずと言っていいほど出てくる問題ですので、ちょっと専門的にはなりますが知っておいて損のない話ですので是非最後までご覧ください。

 

交配種(F1)とはなにか

まず、交配種について説明していきます。
簡単に言うと、性質の異なるそれぞれの両親を掛け合わせてつくったタネのことです。
人間でいえば
日本人とロシア人のハーフ、というように異なる人種の両親から生まれたタネ
と表現することができます。

なぜわざわざこんなことをするかといえば、純血日本人よりも強くて優秀な性質を持つことがあるからです。

日本人の血とロシア人の血が半分ずつ入っているその子は、両方の人種の性質を受け継ぐことになります。
見た目は日本人のように髪が黒くて肌が黄色なんだけど、背が高くて目が青い。
性格は和を大切にしながらも、考えていることを曖昧にせずストレートに表現します。
というような感じです。
交配種のタネというのは、このようなハーフの性質を持っているタネだといえます。

 

雄性不稔(ゆうせいふねん)とはなにか

雄性不稔というのは、交配種を作り出すために利用している現象です。
人間の場合は男性と女性がしっかりと別の個体として分かれているので、子どもを産みたいと思えばアレをアレすればいいんです。
ものすごくわかりやすいし簡単。
でも植物はそうじゃないものもあります。
一つの花の中におしべとめしべがあって、放っておいても花の中だけで受粉(交配)が終わってしまうんです。
生まれたときから許嫁(いいなずけ)がそばにいますよ、という状態ですね。

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これをそのままにしておけば、いわゆる日本人(♂)と日本人(♀)が結婚して子どもを授かったという状態になります。
ふつうの交配です。
もしロシア人(♂)とのハーフを授かりたいと思えば、受粉する前に日本人(♀)のそばにいる許嫁日本人(♂)を強制連行して連れ去り、ロシア人(♂)と日本人(♀)とをお見合いさせなければいけません。

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これが交配種をつくるときに行われている作業です。

うまい例えじゃないのでイメージが悪くなっていますが、許嫁だからといって必ず結婚しなきゃいけないわけでもありませんし、そのロシア人(♂)が魅力的でお互いが相思相愛になれば問題ありませんよね。
・・・・という感情論は話が逸れるのでここまで。

許嫁を引き離しておいてロシア人(♂)と結婚させる。
というこの作業が、じつはけっこう手間がかかるんです。
小さな花の中から、受粉する前の花を開いておしべだけをすべて取り除いて、残っているめしべに別の個体のおしべを受粉させる。
受粉作業はハチが請け負いますが、おしべを取り除くのは人の手。
これを人の手でやるのは根気のいる作業なんです。
種苗会社はここをなんとか改善したかった、という事情があります。
そこで生み出されたのが雄性不稔を使った交配技術というわけです。

 

雄性不稔というのは、許嫁である日本人(♂)が子どもを授かれない精子異常(無精子症)になっている状態の花を利用するものです。

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人間に個体差があるように、植物も何万何十万というなかには正常ではないものがいくつか出てきます。
そういった正常じゃないものから無精子症の個体を見つけて、それを交配に利用する。
交配作業をすこしでもラクにしようとしているんです。
許嫁(♂)が無精子症だから、それを取り除く必要がありません。
ハチがロシア人(♂)を運んでくるだけで受粉が完了します。
大変ラクなんです。
農家が、じゃないですよ。
タネを生産している会社がラクになるという話です。

 

これは別にそれほど特別な技術じゃありません。
自然界に存在しているものを利用して、拡大培養して商業のベースにのせる。
よくあることです。
味噌、納豆、醤油などの発酵食品をつくるときにはそれぞれの発酵に必要な菌が拡大培養されていますし、薬の製造にも微生物の培養は欠かせない技術です。
人類の発展に大きく貢献してきた過去の偉人・天才たちのなかには、障害を持っているがゆえに才能を発揮してきた人物もいたと思われますが、そういう人たちの存在を否定できますか?
雄性不稔は、一般的には異常だといって嫌われてしまうものにスポットを当てて有効活用していこうとするものです。

それなのになぜ雄性不稔が危険視されているかというと
無精子症の遺伝子をもった植物を食べることで、人間の精子にも影響がでる
と言っている人がいるからです。
ただし、この意見には根拠が全くありませんし言っている本人も仮説でしかないと述べています
その仮説が独り歩きして世の中に広まってしまった。
というのが現在の雄性不稔問題です。

納豆を毎日食べていたら「100℃で煮沸しても死なない」という納豆菌の性質が、人間にも影響を与えると思いますか?
自然界からかけ離れた異常な進化を繰り返してきた野菜という植物を食べることが、人間にも影響を与えると思いますか?
    詳しくはarrow070_01無農薬栽培の重要ポイント 野菜を詳しく知る

雄性不稔を危険視するのは、これらを心配することと同じです。

仮説を鵜呑みにして慌てふためくのではなく、目の前にある現実を冷静にしっかりと受け止めてほしいと思います。

 

もちろん農家として注視していかなければならない問題ですが、雄性不稔問題があるから交配種を使わないというのは生産者として非常にもったいないことです。
本当に危ないのかじつは安全なものなのか、それはもっと科学が進めばわかります。
現時点で推測の域を出ていないものを信じるのかどうか。
タネを購入する農家が決めるべきことです。

少なくとも。
消費者から「雄性不稔ってどうなの?」という疑問をぶつけられたときに、自分自身はこのように考えているんだという意見をはっきりと伝えられるべきです。
そのために、自分の意見を持つために、雄性不稔と向き合う必要があると思います。

 

 

多品目栽培でこんな間違いをしていませんか?

たくさんの種類の野菜を同時に育てる、かんたんに表現すれば家庭菜園を大きくしたような農業。

このような、いわゆる多品目栽培は、有機農業ではよくやられている方法なのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。
そして、多くの農家がやってるんだから自分にもできるだろうと、独学で、農家研修で、栽培の基本を学んでから実際に自分でやってみるのですが・・・
このときすでに、じつは大きな間違いをしています。

それは・・・

有機農業が慣行農業の5倍も儲かるって!?

有機農業者は、あまりお金の話をしたがりません。

「収入に魅力を感じて農業をしてるんじゃない。わずらわしい人間関係から解放されて、健康的な暮らしをしたいから有機農業の道を選んだんだ。」

と、収入は二の次だと言います。
だからこそ見えなくなっていた真実。それは、

有機農業はちゃんと稼げる

ということ。家族を養っていくことくらいは簡単に実現できます。しかも、栽培がうまいとかヘタとか関係ありません。誰でも実現できるものです。

ただし、条件があります。
それは・・・

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