実家が農家じゃないけど新規就農する人が、野菜を選ぶ3つの理由

新しく農業を始める人たちの多くは、実家が営んでいる農業を引き継ぐような形で新規就農しています。
いわゆるこせがれ農家と呼ばれる人たちで、新規就農者全体の約7割を占めています。
このほかに、農業法人に就職する新規雇用就農者と、いわゆる非農家から農業を始める新規参入者がいます。
どちらも新規就農者全体からみれば少数です。

新規就農者

今回は。
新規参入者について、実家が農家ではない人が農業の道に進んでいくときに野菜農家になる割合が非常に高い理由を考えていきます。
新規参入者はなぜ野菜を選ぶのか。
そこには合理的な理由があり、これを理解しておくとあなたが新規就農するときに参考になると思います。

 

統計からみる傾向

全国農業会議所が提供している統計資料を見てみましょう。
(資料:新規参入者の就農実態と展開方向

新規参入者の栽培作目

このグラフは、新規就農時の栽培作目と中心作目を示しています。
農家になるときに新規参入者はなにを作ろうとしたか、というグラフです。

栽培作目というのは、栽培しているすべての作目を挙げたもの。
たとえば米と露地野菜というように複数作目をやっている農家もいるので、複数回答可です。
中心作目は、複数作目のなかでも経営の柱になっている作目です。
こちらは単一回答。

栽培作目でみると、露地野菜(43%)、施設野菜(33%)となっており新規参入者の8割近くが野菜を育てていることがわかります。
中心作目をみても、露地野菜(25%)、施設野菜(27%)で5割が野菜を中心に栽培しています。

農業は野菜だけが突出した産業ではなく、米・野菜・花・果樹・畜産など幅広い作目があるんですが、新規参入者にかぎっていえば明らかに野菜に偏っているように見受けられます。

 

ではここで 新規参入者はなぜ野菜を選ぶんでしょうか。
これには3つの理由があります。

 

新規参入者が野菜を選ぶ3つの理由

実家の後を継ぐこせがれ農家と違って、新規参入者は不利な条件からスタートすることになります。
具体的には、農地を持たず、栽培技術を継承できず、地縁がないため販路開拓を一からやる必要があります。
また、倉庫や農業機械などの設備も一から揃える必要があります。
これらのことが、野菜を選ぶ大きな理由になっています。

新規参入だからこそ抱えている事情、それらを詳しく見ていきましょう。

 

■初期投資

田植え

稲作や畜産に比べて野菜は初期投資がかからない作物です。
稲作ならトラクター、コンバイン、田植え機、乾燥機、脱穀機などすべてを揃えるためには多額の投資が必要になります。
畜産にしても、酪農であれば広大な土地と牛舎、牛、搾乳機械など億単位の投資が必要だと言われています。

でも。
スタート当初から何千万円も用意できる人はなかなかいません。
まずは小さいところから地道に成長していくという意味で、初期投資のかからない野菜を選択するのは、新規参入者にとって妥当な路線だと思います。

また。
ビジネスとしてみた場合、初期投資を大きくかけるもしくは大きな借金をしてスタートするというのは、あまり現実的な選択ではありません。
失敗する可能性だってありますからね。
もし離農した時に莫大な借金を背負うというのは、できることなら避けるべきでしょう。

ただし。
野菜の中でも施設栽培に分類される作物の場合は、ビニールハウスなどの設備が必要になりますから、それなりに初期投資がかかることは覚えておくといいでしょう。

 

■農地を確保する

大農場

農業全体として高齢化が進み、耕作放棄地が増えているという現実はありますが、まだ現場では広い農地を確保するのは簡単ではありません。
すでに経営を軌道に乗せている優良農家がいれば、農地を集約したり規模拡大したりすることを望んでいて、よい農地は真っ先に確保していきます。
新規就農者が借りようと思っても情報が上がってこないのが現実です。
実際、行政などに農地を借りようと思って相談に行っても、なかなかめぼしい農地が見つからないといった声をよく耳にします。

水はけが悪いとか、農地の形が悪いとか、日当たりが悪いとか、面積が小さいとか、条件の悪い農地であればいくらかは見つかりますが、まとまって大規模に農地を借りることはなかなか難しい。
だから、土地利用型の米・麦・大豆などの作物は、新規参入者では手を出しにくいんです。

稲作で農家が生計を成り立たせるためには少なくとも10町歩という面積が必要だと言われています。
そんな面積を、新規参入者が借りられますか?

 

■収益化サイクルが短い

就農してからの道のりとしては。
農地を耕す、種をまく、収穫をする。
その工程を経て、ようやく生産物を換金して収入になります。
つまり、スタートしてから収益を上げるまで一定の期間があるわけです。

この期間が長ければ長いほど、無収入が続きます。
だから少しでも早く収入を得るという意味で、収益化サイクルが短い野菜を選択するのは 現実的ではないでしょうか。

 

リンゴの木

例えば。
果樹の場合、苗木を植えてから収穫が始まるまでには何年もの期間がかかります。
桃栗三年柿八年って言いますし。

畜産だと養鶏と養豚、肉用牛では収入になるまでの期間に差があるものの、やはりその期間は長くなる傾向にあります。
酪農(乳牛)であれば割と早い収益化が見込めますし、鶏卵もかなり早く収益になるので 新規参入者も手を出しやすい領域だといえるかもしれません。

 

仕事をしているのに無収入の期間が続く。
これはサラリーマンを長く続けてきた人にとっては、耐え難い苦痛になるはずです。
だからこそ無収入期間が短い野菜を選ぶ人が多いのではないでしょうか。

 

現実を見て、そして選択する

農地を持たず、機械や倉庫を持たず、技術や販路などの経営基盤もない。
そんななかでも就農するためにはどんな道があるのか、どんな道なら就農することができるのか。
それを考えた結果が、統計には表れています。

新規参入者は野菜を選ぶ。

そこにはある程度の妥協があったり、現実的な計算があったり、それぞれの思惑がひそんでいますが、無理なく着実に進んでいくための選択をした結果だろうと思います。

穀類(米、麦、大豆)は大面積が必要。
果樹は収益化までの期間が長い。
畜産は初期投資がかなり大きい。

それらに比べると野菜は、小さな面積で始めることができ、収益化までのサイクルが短く、比較的初期投資が小さいと言えます。

ただし、市場価格の乱高下が大きく、鮮度保持が難しく、単価が低く薄利多売になりやすい、といったデメリットがあることも知っておくべきです。


米をつくりたい。
りんごを栽培したい。
そういう切り口で就農できるのはある意味では幸せなことかもしれませんが。
置かれている状況次第で、できることとできないことがあります。

それが現実です。

自分が就農するときに、どの作目を選ぶことができるのか、現実を見たときに開かれているルートはどれなのかを考えてみてほしいと思います。

 

 

 

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