真面目に土づくりを勉強していくと早い段階で壁にぶちあたります。
CECが重要だとかPHを調整しましょうとか、ECが高くなりすぎないように気をつけましょうとか、石灰と苦土も忘れずに入れましょうとか、いろいろと難解ワードが出てきて混乱しますよね。
窒素・リン酸・カリだけでも頭が痛いのに、ほかにも覚えることが多すぎる!もういやだ!と教科書・参考書とかビリビリに破り捨てたくなります。
でも安心してください。今日で土づくりのハードルが一気に下がります。細かいところは抜きにして土づくりの概念を分かりやすくお伝えします。
目次
土づくりとは「うなぎのタレ」づくりである
まずはうなぎのタレの作り方について解説します。知りたくないかもしれませんが大切な話なのでちゃんと読み進めてください。
うなぎのタレ、美味しいですよね。うなぎの蒲焼きがあんなに美味しいのはタレのおかげだといっても過言ではありません。おそらくうなぎにソースをかけて食べてもがっかりするはずです。ケチャップでもダメだと思います。あの味だからこそうなぎの蒲焼きは活きてくるんです。
さてそんなタレですが、意外に誰でも作ることができます。じつはけっこうシンプルなんですよ。
【材料】
1.濃い口醤油: 600cc
2.みりん:300cc
3.さとう:450g
4.酒:70cc
材料はたったの4種類。意外に少ないですよね。タレづくりの手順もそれほど難しくありません。今回は直径16cmの雪平鍋(容量1.2L)で作っていきましょう。
①みりんと酒を混ぜ合わせ強火で沸騰させる(アルコールを飛ばす)。
②砂糖と濃い口醤油を溶かし込み弱火でよく混ぜる。
③あくがでてきたら取り除く。冷ましたら完成。
はい、簡単ですね。
CECは器の大きさ
話を土づくりに移します。作物を育てるための土づくりというと
「どの栄養素をどれくらい投入するか」
結局のところカギになるのはこれですよね。窒素肥料をどれくらい入れたらいいのか、石灰はどれくらい必要なのか。種類と量を気にするわけです。
いちおう断っておきますがこれは化学性の話です。もちろん物理性や生物性についても考えてこその土づくりなんですが今回は割愛。化学性だけに絞って話を進めます。
肥料分をどれくらい入れるのか、つまり量を考えるときに出てくるキーワードがCECと塩基飽和度です。出てきました難解キーワード。頭痛のタネ。
でも大丈夫です。さきほどのウナギのたれを思い出してください。
雪平鍋 → CEC
材料 → 各種肥料
このように置き換えてみてください。
鍋に材料をぶち込んでタレを作ったように、CECという器にいろんな肥料をぶち込むのが土づくり、というわけです。
CEC鍋が大きければたくさんの材料が入ります。たくさんタレを作れたら、お腹をすかせた人でもじゅうぶんに満腹になります。逆に鍋が小さいとあまり材料を入れることができず、満腹になる前にタレがなくなってしまいます。
ここで言う「人」は、土づくりでは作物のこと。作物がじゅうぶんに生育するためにはじゅうぶんな肥料分が必要で、CEC鍋の大きさによって提供できる食事量が決まってくるんです。
CECの大きさは、土壌によってだいたい決まっています。火山灰が積もってできた黒ボク土はCECが20以上ありますが、それ以外の沖積土だと10~20くらい、とくに砂が多い土壌だと10未満になります。
10と20では容量が2倍違いますからね、そこに入る肥料の量もぜんぜん違います。たとえばナスを育てるために肥料が15くらい必要だとして、CEC20なら肥料全量を入れられますが、CEC10だと鍋からこぼれてしまいます。こんなときは一度にすべての肥料を土に入れるのではなく、生育に合わせてすこしづつ肥料を足していく、つまり追肥型の栽培をします。ナスなどの果菜類で生育に合わせて追肥をするのは、このCECが関係していたりするわけですね。
塩基飽和度はCEC鍋の溢れ具合
CEC鍋にどれくらい材料が入っているのか、それを%で表したのが塩基飽和度です。鍋いっぱいに入っていたら100%だし、半分しか入っていなければ50%というわけです。ただし、一般的に塩基飽和度を出すときにはカルシウム、マグネシウム、カリウムの3種類の合計で表されます。窒素は有機態で他の物質にくっついていたり無機態になってもアンモニアや硝酸に変化したり、いろんな形で土に留まりますし、リン酸は鉄鉱物にくっつくことが多くちょっと性質が違うので塩基飽和度の計算には含めません。
つまり、塩基飽和度はCEC鍋にカルシウム、マグネシウム、カリウムが何%入っているかを表しています。
美味しさを決めるのは材料のバランス
うなぎのタレを作るときの材料は、
1.濃い口醤油: 600cc
2.みりん:300cc
3.さとう:450g
4.酒:70cc
でしたね。この4種類をこの分量で入れるから美味しいタレになるわけです。もちろん少しバランスを変えて独自の味を追求することもあるでしょうし、食べる人の体調に合わせて味を変えたりする職人もいるかもしれません。いずれにしても分量をどんなバランスにするのかは味に大きく関わってきます。
土づくりでも同じことが言えます。窒素とリン酸はもちろんカルシウム、マグネシウム、カリウムほかにも微量要素と言われる栄養素がどんなバランスで含まれているのかによって、作物の育ち方は違ってきます。もちろん作物の種類によっても最適なバランスは変わります。そこで育つ作物が食べて満足する味にするには、材料の分量が大切だということです。
このときに参考になるのが施肥基準。窒素・リン酸・カリウムについては各都道府県ごとに施肥基準の表を持っていますし、インターネット上にもそれは公開されています。
カルシウム、マグネシウム、カリウムについては拮抗作用があり、植物の生理上こんなバランスで栄養素が含まれていると吸収しやすいですよ、という黄金比みたいなものが存在します。
・カルシウムの吸収は、マグネシウム、カリウムが多いと抑制される。
・マグネシウムの吸収は、カリウムが多いと抑制される。
・カリウムの吸収は、カルシウム、マグネシウムが多いと抑制される。
三国志の魏・呉・蜀の勢力が拮抗しているときは意外に平和、みたいな感覚でしょうか。バランスについては当量比(兵士数)で
カルシウム、マグネシウム、カリウム=5:2:1もしくは7:2:1
これがちょうどよいと言われています。
窒素・リン酸・カリウムの施肥基準を参考にしつつ、カルシウム、マグネシウム、カリウムのバランスも整える。投入量についてはCECを見ながら塩基飽和度を気にして決めていく。ざっくり言えばそんな感じでしょうか。
なぜうなぎのタレなのか
今回の話、なぜうなぎのタレなんだ?ラーメンスープじゃダメなのか?野菜炒めとかでもよかったんじゃないか?と思った方もいるでしょう。
だめです。うなぎのタレを選んだのには理由があります。それは
継ぎ足し
があるからです。うなぎのタレには継ぎ足しをしながら伝統の味を受け継いでいくという技がありますよね。この継ぎ足しが土づくりでの施肥に通じるものがあるんです。
前作でなにかを育てたとき、肥料を入れたはずです。それは全て使われてゼロになるのではなく、残肥として土の中に残ったりします。次に作物を育てようと思ったときには、残肥を考慮していま土の中には栄養分がどれくらいあるのかを気にしながら施肥設計をしなければならないんです。
つまり施肥量を決めるときには
目標値(施肥量)= 施肥基準 ― 残量
という計算になり、新たに投入する肥料は「継ぎ足し」なわけです。
これをラーメンスープと同じだろ!と鍋に必要な材料を詰め込んでしまうと失敗します。そこには以前のスープが残っているからです。残っているスープの味と量を知ったうえで、そこに新しい材料を足していかなければなりません。ラーメンなら残っているスープを捨ててまた一から作り直すことができますが、土づくりはリセットできません。継ぎ足しが基本であることを忘れたら失敗しますよ。
多品目栽培でこんな間違いをしていませんか?
たくさんの種類の野菜を同時に育てる、かんたんに表現すれば家庭菜園を大きくしたような農業。
このような、いわゆる多品目栽培は、有機農業ではよくやられている方法なのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。
そして、多くの農家がやってるんだから自分にもできるだろうと、独学で、農家研修で、栽培の基本を学んでから実際に自分でやってみるのですが・・・
このときすでに、じつは大きな間違いをしています。
有機農業が慣行農業の5倍も儲かるって!?
有機農業者は、あまりお金の話をしたがりません。
「収入に魅力を感じて農業をしてるんじゃない。わずらわしい人間関係から解放されて、健康的な暮らしをしたいから有機農業の道を選んだんだ。」
と、収入は二の次だと言います。
だからこそ見えなくなっていた真実。それは、
有機農業はちゃんと稼げる
ということ。家族を養っていくことくらいは簡単に実現できます。しかも、栽培がうまいとかヘタとか関係ありません。誰でも実現できるものです。
ただし、条件があります。
それは・・・