新規就農を検討するときに、
自分で育てた大豆で味噌を作りたいなぁ
とか
見た目が悪くて売れない野菜を漬物にして売ったらロスがなくていいんじゃないか
とか考えたことはありませんか?
農業をやりたい人の一定割合は、自給自足のために食べ物を自分で作れるようになりたいと思っていて、その延長線上に漬物や味噌などの加工品もやってみたいというプランがあったりします。
米や小麦や野菜を育てて、庭に果樹をいくつか植えておいて、味噌や漬物、ちょっと面倒だけど醤油もつくってみたりして、ニワトリを飼って卵と肉を確保する。
食べ物の自給自足を実現するためにあれこれと手をかける、そういう農家像に憧れる人はおそらく少なくないんじゃないでしょうか。
今回は。
昔ながらの農家がふつうにやっていた加工品製造も含めた農業の形について、つまり6次産業化について書いてきます。
1次産業である生産主体の農家が6次産業化するとはどういうことか、そこにはどんなメリット・デメリットがあるのか。
新規就農者は6次産業化とどのように向き合うべきか。
などに触れていきます。
すこしでも参考になるところがあれば幸いです。
目次
6次産業化とは何か
農業の6次産業化という言葉が最近よく使われます。
これから農業をやろうかと考えている人であれば、もしかしたら一度は聞いたことがあるかもしれません。
かんたんに言えば六次産業化というのは
①生産(1次)、加工(2次)、販売(3次)までを農家自身が一体的に取り組むこと
もしくは
②農家が2次業者や3次業者と連携して新しい商品・サービスを生みだすこと
を言います。
一次 × 二次 × 三次 = 六次
または
一次 + 二次 + 三次 = 六次
という計算式から6次産業化という言葉が造られました。
具体的な例を挙げると。
白菜農家が、浅漬けの加工をして販売する。
乳牛を育てる酪農家が、ソフトクリームの製造・販売をする。
ニンジン農家がジュースに加工して販売する。
野菜の多品目農家が、農家レストランを運営する。
など。
これってそんなに珍しいことでもないですよね。
もちろん手掛けている農家の絶対数こそ多くありませんが、そんなに目新しい事業というわけではありません。
あえて六次産業化という言葉を使うまでもなく、昔から農家は漬物や味噌を仕込んでそれを売ったりしていたので馴染みのある経営形態なんです。
ただ、それを事業として明確に位置づけて利益を上げていきましょう!と音頭をとるために、国が六次産業化という単語で先導しているだけの話です。
つまり。
農業の6次産業化は昔から行われていましたが、事業としてみれば産業をまたいで活動しているわりと先進的な取り組みだといえます。
国が勧めるものに乗っかるのはちょっと怖い
2016年現在、農水省は農業経営の六次産業化を国策として強く推し進めています。
強い農業をつくっていくための施策のひとつだといえますが、国が音頭をとって推進していくことにはどうしても不安がつきまといます。
養蚕しかり、減反政策しかり、飼料米の生産拡大戦略しかり。
あまりよい印象がありません。
6次産業化が同じようにならないか心配ですが、なぜ国策として打った政策がパッとしないのかについてはひとつの答えが浮かびあがります。
みんな6次産業化を勧めましょう!
といって国が音頭をとるということは、多くの農家が一斉に動くということです。
みんなが加工品に手を出して、なんとかがんばって販売もしていく。
みんながやるから農家手作り加工品が世間にあふれ、珍しくもなんともなくて売れにくくなる。
国の先導で一気に動くということは、差別化にならない可能性があります。
差別化はビジネスでの重要な戦略です。
他の人がやらないような方向に進んだり、他にはない特徴を備えた商品を開発したり、差別化は横並びで一斉に動き出すものではありません。
だからこそ。
完全に否定はしませんが、国策として舵取りをしているときに6次産業化に乗っかるのはちょっと怖いかなという印象を受けますね。
農業の6次産業化 メリットとデメリット
すこし冷静になって、6次産業化にはどんなメリット・デメリットがあるのかを考えてみます。
なぜ六次産業化が歓迎されているのかというと、大きな要素として
収入の安定
が挙げられます。
農協出荷や市場出荷などを販路に持っている一般的な生産農家は、その収入を市場価格の変動に左右されます。
自分の農産物を加工して販売することができれば、価格の変動が小さくなるため安定した収入を見込めるわけです。
また、単価の低い作物を大量に売っていくよりも、加工して付加価値をつけることで高単価で取引ができるようになる、というメリットも挙げられます。
そして雇用の拡大もメリットとして挙げられます。
家族経営をしている農家が、業務拡大のために従業員を雇おうと考えたとき、労働の均一化がカギになります。
気候や天候に左右される農業の場合、9時~17時の8時間勤務で土日休みのような固定勤務を実現するのはかなり難しいです。
農繁期など忙しいときは暗くなっても働かざるを得ないときがあるし、冬にはガクンと仕事量が減って暇を持て余す。
雨が降れば休みになったり、台風の前には土日なんて関係なくやるべきことがある。
年中通して均一労働を実現するのはけっこう難しいんです。
だから6次産業化することで冬の暇なときでも加工業務に人を回せるようになる。
農作業での労働負荷を加工部門で調整することで、従業員を雇うことができるようになります。
家族経営から法人化へステップアップしていくときに、6次産業化が大きな役割を果たす可能性があるんです。
ここまで取り上げたメリットを見るかぎりでは。
6次産業化には、雇用・法人化が前提になっている側面があります。
家族経営から脱却して大規模化していくなら、6次産業化したほうが安定した経営ができますよ。
みたいな。
(画像参照:株式会社共同食品センター)
でも。
加工(2次)をするなら衛生や食品管理の知識が必要になります。
加工に関わる技術的なノウハウが必要になります。
それを専門にやっている業者に、にわか仕込みの農家が勝てるのかをしっかりと考えなければならないと思います。
販売(3次)でも同じことがいえます。
世のなかには販売のプロがいて、営業のプロがいて、サービスのプロがいます。
それを専門にして収入を得ているプロがいるなかで、生産農家がそこに踏み込んでいって果たして勝てるのかを考える必要があります。
自動車を製造している会社が、原材料である鉄を精製するところからやりますか?
鉄の精製は製鉄会社に任せていますよね。
販売にしても自動車販売を専門にする会社があります。
自社農場をもって運営している飲食店がまれにありますが、ほとんどの飲食店は原材料を仕入れています。
それは自分で生産するよりも仕入れたほうが効率的だからではありませんか?
料理をつくって提供することに集中したいからではありませんか?
農家自身が6次産業化を進めて加工や販売に安易に手を出していくことは、2次のプロや3次のプロのテリトリーに踏み込むことであり、そこでも勝負しなければならないことを知ってほしいと思います。
ただし。
6次産業化には2つの形があって(さきほど書きましたが)、
①生産(1次)、加工(2次)、販売(3次)までを農家自身が一体的に取り組むこと
②農家が2次業者や3次業者と連携して新しい商品・サービスを生みだすこと
いわゆる農商工連携という道②はうまくいく可能性があると思います。
つまりプロに任せるところは任せて、なるべく自分の得意分野である生産に集中するという道です。
得意分野である生産に集中したうえで、新しい商品・サービスを生みだすのは利益の拡大につながりますから。
上記の自動車や飲食店の例がそうです。
もちろん全て自分でやるよりは利益が少なくなりますが、すくなくとも現状よりは前に進むのではないでしょうか。
新規就農者として6次産業化にどう向き合っていくのか
(画像参照:笑える国語辞典)
農家が6次産業化していくことをすべて否定しているわけではありません。
原材料生産を手がけているということは、差別化の大きなメリットになるからです。
ビジネスで成功するための戦略のひとつとして
差別化
がありますが、量的攻勢に出られない小さな農家にとって他との差別化を図ることは非常に重要な生き残り戦略です。
ほかでは買えないプレミアム感を演出して価格を安定させる。
ニッチな市場に向けて差別化した特徴的な商品を当てていく。
差別化を図ることで大規模農家とも対等に、もしくはゲリラ的に戦っていけるようになります。
原材料をつくっているのは生産者である農家です。
その農家は原材料のことを誰よりも知っています。
生産のプロだから当然です。
飲食店が、
契約農家から仕入れた安全で美味しい野菜です
とアピールすることはよくありますが、もし農家がレストランをやれば
私が育てたこだわりの野菜です
となり、アピールの強さがさらに増します。
漬物の製造・販売をしている業者がいくら
原材料にこだわっています!
とアピールしても、生産者である農家が
原材料からこだわっています!
と主張するのには敵いません。
ようするに、生産者であることを前面に出すだけで差別化になるということです。
ただし競合する農家が同じように6次産業化をしてきたなら、農家間での差別化を考える必要があるのは言うまでもありません。
周りがやっているから自分も、国が6次産業化を叫んでいるからやってみようか、というノリではだめだということです。
とはいえ。
生産しかしてこなかった農家に、加工もやって販売もやるというのはハードルが高すぎる気がします。
これから新しいことを一から始めようとする新規就農者にとっても、生産だけでなく加工も販売も手がけるのは荷が重いでしょう。
であれば。
いきなり6次化をするのではなく、まずは加工するところだけ、まずは販売だけやってみる、といったステップを踏んではどうでしょうか。
自分で販売をしていくのはちょっと難しいから、加工だけやってあとはスーパーなどの小売店に卸して委託しよう。
というのは一次 + 二次 = 三次です。
消費者に直接売るためインターネット上のショッピングモールに自社サイトを持ったから、加工はやらないけど農産物を自分で販売していこう。
これは一次 + 三次 = 四次。
6次化を最初から進めていく必要はないと思いますが、次元をひとつでも上げていくことを考えてみてはいかがでしょうか。
そして。
収入が安定することは農家にとって大きなメリットなんですが、
自分は本当に加工までやりたいのか
をしっかりと考えてみたほうがいいと思います。
事業拡張したい、収入を安定させたい、という気持ちはもちろん分かりますが、それより前に
栽培がとにかく好き
という本音が心にあるなら、それを置き去りにしないようにしたいものです。
多品目栽培でこんな間違いをしていませんか?
たくさんの種類の野菜を同時に育てる、かんたんに表現すれば家庭菜園を大きくしたような農業。
このような、いわゆる多品目栽培は、有機農業ではよくやられている方法なのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。
そして、多くの農家がやってるんだから自分にもできるだろうと、独学で、農家研修で、栽培の基本を学んでから実際に自分でやってみるのですが・・・
このときすでに、じつは大きな間違いをしています。
有機農業が慣行農業の5倍も儲かるって!?
有機農業者は、あまりお金の話をしたがりません。
「収入に魅力を感じて農業をしてるんじゃない。わずらわしい人間関係から解放されて、健康的な暮らしをしたいから有機農業の道を選んだんだ。」
と、収入は二の次だと言います。
だからこそ見えなくなっていた真実。それは、
有機農業はちゃんと稼げる
ということ。家族を養っていくことくらいは簡単に実現できます。しかも、栽培がうまいとかヘタとか関係ありません。誰でも実現できるものです。
ただし、条件があります。
それは・・・