就農地を決めるときの注意点 気候・地形・商圏を考えよう

実家が農家で跡を継ぐという就農ケースであれば、就農地をどこにするのかという問題はありません。
でも。
サラリーマン家庭で育ち、農業をやりたいと思ったときに家族や親せきを辿っていっても農地を確保する当てがないという場合、
どこで就農するのか
という大問題がまず最初にやってきます。
地元で農業をやるのか。
まったくの新天地で農業を始めるのか。
どーんと広がる平坦地がいいのか。
山里で自然豊かな中山間地域がいいのか。

選択肢があるだけに迷うところだと思います。
今回は。
一般的にみて農業をやるとしたらどんな地域がいいのかという点に触れていきます。

 

中山間地の現実

ひとくちに農業といっても形態は様々で、
水稲や小麦、大豆などの穀類
野菜
果樹
花き
畜産

など扱う品目は多岐にわたります。
だから農業経営に必要な農地の条件もそれぞれ違っていて、ひとくくりにして語ることはできません。
とはいえ。
共通して言える点もいくつかありますの、それらを挙げていきたいと思います。

日本の国土は平地が少なく山林が多い。
というのはみなさんご存知かと思いますが、平野の外縁部から山間地に至るいわゆる
中山間地域
は耕地面積の約4割を占めています。
こういう地域では山の斜面を切り開いて農地にしているため、平らな面をつくるために農地を段々にしていることが多いです。

棚田

そうすると、農地一枚当たりの農地面積が小さくなります。
これは非常に管理が大変なんです。
まず土手(法面)があるのでここに生えてくる草をきれいに管理する必要があります。
芝のように短めに刈り込むことで、草の根がびっしりと張って土手が崩れにくくなるからです。
夏の間はかなり草が旺盛に伸びてくるので定期的に刈り込む必要があり、これがとにかく手間。
個人差や地域差はありますが年3~6回くらいは刈っているはずです。
平坦地で土手が少ない地域ならこの作業は少なくて済むだけに、中山間地ならではの負荷労働になっています。
段々がきつくて一枚当たりの耕地面積が小さい、棚田といわれるような農地だったら土手の管理だけで夏が終わってしまいますよ。

そして。
一枚当たりの農地面積が小さい、というのが作業効率に関わってきます。
トラクターなどの機械で耕すとき、農地内を行ったり来たりしながら全体を耕していきます。
このとき、向きを変えるためのターンが意外と手間で、時間をロスしてしまうところなんです。
だからターンが少なければ少ないほうがありがたく、農地面積が小さいとターンにばかり時間がかかって効率が悪くなります。
 


獣害に悩まされるというのも中山間地域のデメリットです。
イノシシやシカ、猿などが作物を狙ってくるため、被害を受けると農家としてはけっこうなダメージがあります。
これを防ぐために電気柵を設置したり金網フェンスを設置したりしますが、設置するための金銭的・時間的コストがかかっていますし、完全に防ぎきれるものでもありません。


一般的にみて、平坦地に比べれば中山間地での農業は不利です。
山里で田舎暮らしにあこがれて農業を、という方もいらっしゃると思いますが、現実的にはけっこう厳しいことを覚えておいてください。
とはいえ耕地面積の4割は中山間地域ですから、ふつうに農地を探して新規就農しようとすれば条件の悪い中山間での農業になってしまう可能性も高いですが。

 

雪国の現実

雪国

降雪のある地域はそれだけで不利です。
雪が積もっている間はなにも栽培できないのは普通に考えればわかります。
栽培できないから雪のない期間で一年分の収入を得なければならず、それができなければ冬は出稼ぎに行くという暮らしが待っています。
もともと実家が雪国で、地元愛にあふれているならそこで就農するのもいいとは思いますが、専業農家としてやっていこうと考えているならよほど計画的に進めていかないと苦い経験をすることになります。
雪国を批判するつもりはありませんが、有利不利で言えばやはり不利であると言わざるを得ません。

付け加えておくと。
雪が降るような寒い地域ではたとえ降雪がなくても生育が進みにくいとも言えます。
気温が作物の生育に大きな影響を与えるからです。

北海道が農業大国なのは広大な大地があるからであって、もしあの大地が九州や沖縄くらいの緯度にあったら生産力は倍増するはず。
暖かいというのはそれだけで有利に働きます。
私は愛知県の中山間地域、標高300mくらいのところで農業をしていますが、山を降りた平地(標高50m以下)との気温差をものすごく感じますし、その気温差が野菜の生育にかなり影響を与えていることを実感しています。
ほんの数度の差ではありますが生育の進み方や生産量が違うんです。

これは農業から視点を外して自然をみればわかります。
標高が1000m、2000mと上がっていくと植生はさみしくなっていきます。
寒いというのは植物にとって生きにくい環境なんです。
これは動物でも微生物でも同じ。
赤道に近くなればなるほど生き物の密度が高くなることは明らかです。
暖かい環境は、生き物にとって過ごしやすいんです。

もし就農地を自由に選べる立場にいるのであれば、栽培する品目にもよりますがなるべく暖かい地域で農業をすることをお勧めします。

 

農業しやすいのは温暖地域だけど

ただし。
暖かいのはよいことばかりではありません。
生き物が活動的になるということは虫が多くなるということ。
必然的に虫害に遭う可能性が高まります。
作物の栽培は虫との戦いにけっこう頭を悩ませますから、涼しい気候で虫害が少なく育てやすいのはメリットになります。
とはいえ涼しい気候ではさきほど書いたように生育の進みが悪いというデメリットがあります。
長野県は標高が高く涼しい気候のため、レタスやキャベツなどの野菜を他の地域では栽培が難しい夏に育てて出荷することができ、それが差別化となりブランドとなり産地化の成功例になっています。
でも冬は寒い。
降雪は地域によりますが全般的に寒さが厳しいので作物は育ちません。
北海道もそうですが、夏の内に一年分を一気に稼ぐという営農をせざるを得ない状況に追い込まれているんです。
地域や気候に合わせた農業の形が求められます。

自分がどんな形で農業をやりたいのか決まっているなら、そのスタイルがあっている地域を選んで就農するというのもいいんじゃないでしょうか。

 

商圏を無視するのがインターネット

商売には商圏があります。
穀類はあまり気になりませんし農協出荷でも気にしないと思いますが、生鮮食品である野菜などは新鮮なうちに食卓まで届けることが重要になってくるので、なるべく消費地に近いところで生産をしたほうが有利になります。
自分で販売も手掛けていくときには気になるところです。

就農地を選ぶとき、温暖な地域がいいだろうとか自分が住みたいのはこんなところだとか色々と考えて決定していきますが、
近くに大消費地があるか
というのも重要な項目になったりします。
もちろん売り先によりますが。
スーパーなどの小売店に売っていくにしろ、飲食店などに卸していくにしろ、家庭向けに販売していくにしろ、地元の農産物を求める顧客は多いですし口コミで広がっていくときには地元であることが有利に働きます。
だから就農地域に大きな商圏があることは、経営的にものすごくメリットがあります。

よくあるのが
うちで新規就農したら100万円あげます!
みたいな誘い込み。
過疎対策として、移住者を増やすために新規就農者には金一封を支給したり毎月一定額を支給したりする自治体があります。
たしかに魅力的ですが、農業で食っていくのが難しい地域だからわざわざ税金を使っているんだということを考えてみてほしいと思います。
たいてい商圏に顧客が少ない地域ですよ、そういうところは。
そこに飛び込んでも自分は農業でちゃんと稼げる!生活できる!という意気込みがあるなら止めませんが、ふつうに考えるなら農業をやるには苦労を伴うような地域だと思っておいてください。


ここで。
商圏を無視するツールが近年には登場しています。

インターネット・パソコン

インターネットです。
インターネットをうまく活用していくことで、商圏を無視して販売することが可能になります。
どんなに山奥でも、どんなに過疎地域でも関係なく、日本全国どこからでも注文が入ります。
鹿児島で農業をやっている農家が、東京の消費者に向けて売り込みをかけていくのは容易ではありませんが、インターネットではそれが可能になります。
だから就農地を決めるときに商圏を気にする必要がなくなるんです。
どんなところで就農しても買ってくれる人がいるなら、自分の営農スタイルに合った気候の地域に行けばいいですし、田舎暮らしをしたいなら山奥に引っ込むこともできます。

まだまだ農家がインターネットをうまく活用している事例は少ないですが、時代の流れを考えてもインターネットを使わないのは非常にもったいないことだと思います。

 

 

ということで。
一般的には農業をするなら温暖で平坦な地域で就農したほうが栽培面では有利ですし、商圏を考慮するなら大消費地が近いことが販売面で有利に働きます。
ですがそういう地域は農業が盛んだったり農地の確保が難しかったり、そんなに簡単に話が進まないことも多いです。
だからこそ商圏という枠を外すためにインターネットを活用する。
ということも考えて、どこで就農しようか考えてみてください。

 

 

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