有機農業の野菜セット農家って、定期購入のお客様を相手にすることが多いので、経営的にはけっこう安定します。
一度購入したら続けることに意味がある、健康食品みたいな位置づけでしょうか。
たとえば。
野菜セット農家として雇用をしない、家族経営規模でやっていくなら、
100組の顧客がいれば経営として充分に成り立ちます。
3000円セット × 毎週100件 × 52週 = 1560万円
実際には毎週お届けするお客様もいれば、隔週でお届けするお客様もいて。
場合によっては月に一回というお客様もいたりします。
100組の顧客がいるからといって必ず毎週100件発送するわけじゃないので、売り上げ自体はもっと下がります。
とはいえ。
ふつうビジネスでは、いかにリピートしてもらうかに命をかけて営業したりするので、リピートが当たり前の野菜セット農家って幸せですよね。
たった100組の顧客をつかまえるだけで経営が安定するんですから。
ではここで考えてみてください。
必死に営業をかけて集客をして100組の顧客を得たとして、 経営規模的にはこれで十分だとすると。
そこで営業を止めてしまっていいのでしょうか。
その100顧客は未来永劫ずっと顧客で居続けてくれるんでしょうか。
今回は、顧客の維持について考えていきます。
一生涯付き合っていける顧客が果たしてどれくらいいるのか、ということを考えてみて欲しいと思います。
目次
生涯顧客価値
どれだけ親身に付き合ってくれる顧客であっても、5年10年と続けて購入してくれる顧客であっても、いつかは離れていきます。
重い病気にかかったり、子供が大きくなって家を出たり、出張や転勤があったり、気持ちの変化があったり。
金銭的な事情だってあるでしょう。
家庭環境が変われば、熱烈なリピート客であっても購入をやめることは充分に考えられます。
仮に今、100件の顧客で農業経営が成り立っていたとして、はたして5年後もその顧客数を維持できるのかと言うと、
顧客数が50件まで減ってしまっている可能性は十分にありえるんです。
たとえば。
さびれた田舎にあるスナックを想像してみてください。
常連さんばかりが集うスナックってありますよね。
そういう店は、確かに安定して収入が得られる経営をしているかもしれません。
でも10年後はどうでしょう?
20年後はどうでしょうか?
常連さんたちすべてが、20年経っても通い続けてくれる保証なんてありませんよ。
常連さんが減っていくことを想定して、新しいお客さんを呼び込む営業をしていかなければ、そのスナックはいつかつぶれてしまう。
これは簡単に想像できます。
家族農業もこれと似たようなことが言えます。
常連さんだけで成り立っているうちはいいですが、長い目で見た時には新しいお客さんも確保し続けなければいけない。
リピート客を持ちつつ、新規客も開拓していく。
その必要性はお分かりいただけるのではないでしょうか。
顧客償却
経営コンサルタントの吉岡憲章氏による造語があります。
顧客償却
商売において、同じ商品・同じサービス・同じマーケティング方法を続けていたら、1年で2割の顧客は減ってしまう。
という法則です。
100人⇒80人⇒64人⇒51人・・・。
たとえ100人の顧客を持っていたとしても、その人たちが永遠に続けて商品を買ってくれるわけではありません。
新規顧客を増やしていく努力をしなければ、顧客はどんどん減っていく。
という話です。
また、同じサービスを続けていたら顧客は飽きてしまいます。
インターネットが急速に普及しているなかで、いつまでも同じ営業だけをしていたら顧客確保はどんどん難しくなります。
常に上を目指していかなければ、商売を維持していくことはできません。
商売の基本として、顧客償却という考え方があることは覚えておいてください。
顧客の分散はリスク回避
ちなみに。
農協取引や契約栽培をしている場合、その農家にとっての顧客は1件もしくは数件程度になることがほとんどです。
これってリピート客ですよね。
その取引先が大企業でしかも優良経営を続けているなら、一生涯付き合っていける可能性もあるかもしれません。
農協なんてまさにそう。
その取引が突然なくなってしまう、なんてことは考える必要もないほど安定しています。
この場合でも、
リピート客を持ちつつ、新規客も開拓していく。
という思考が必要なのかどうかについて触れてみます。
一番に考えなければならないのが、経営のリスクです。
家族のためにも自分のためにも、収入が途絶えることだけは避けたい。
とつぜん売り上げがなくなることほど恐ろしいことはありません。
もし農協との取引が中止になったら・・・。
契約している業者が倒産したら・・・。
何十年と安定して農業経営を続けていたとしても、それは一気に崩れ去ります。
畑で栽培している商品の売り先が突然なくなってしまう、という危険は離農に直結する恐ろしい問題です。
育てた作物の行き先が1件もしくは数件しかないのは、経営上のリスク回避という点ではかなり危険だということがお分かり頂けるでしょうか。
じゃあどうしたらいいのか。
単純に、顧客をたくさん持てばいいだけです。
一般的に、顧客分散は20件以上が良いとされています。
1件2件がもし取引を中止しても、経営としては大きな被害を受けませんし、数件程度であれば新規顧客の獲得は難しくありません。
また、20件程度であれば1件あたりの顧客単価も高く、経営効率はそれほど落ちません。
大きな取引先があることは、一見するとものすごく経営が安定しているように見えますが、実際は一瞬で転覆する可能性もあるということを覚えておいてほしいと思います。
大企業が集客しつづけるのはなぜか
リピート客を持ちつつ、新規客も開拓していく。
この重要性を理解するのに参考になるのは、大企業の経営です。
大企業は、あれだけ大きな売上を出して、大きな利益を残しているのになぜ、毎年のように多額の広告費を使うのでしょうか?
日本中の人が知っているような有名企業であっても広告を打ち続けるのはなぜでしょうか?
よく考えてみてください。
間違いなく大企業は、顧客償却という考え方を知っています。
新規顧客を獲得し続けなければ経営は落ち込んでいくことを知っています。
だから集客し続けるんです。
マクドナルドはなぜ子供向けにCMを流すのか。
それは、子供のうちからマクドナルドの味を知ってもらって好きになってもらえば、
大人になってもお店に通ってもらえるから。
長年にわたって続けて買ってもらえるから。
という長期戦略があるから新規顧客を開拓し続けるんです。
大企業の戦い方と小さな農家の戦い方はもちろん違います。
ですが、参考になることもあります。
大小にかかわらず、成長し続けるにはちゃんと理由があります。
盗めるところは盗んでいかなければ、小さくても強い農業は実現できません。
顧客は減っていく、という当たり前の事実をしっかりとふまえたうえで
リピート客を維持しながら新規顧客を開拓する。
という販売戦略を立ててみてください。
今回のチェック
●経営の安定のためにはリピート客と新規客が必要
●田舎の寂れたスナックを反面教師とする
●顧客を分散することは経営のリスクを低減することにつながる
多品目栽培でこんな間違いをしていませんか?
たくさんの種類の野菜を同時に育てる、かんたんに表現すれば家庭菜園を大きくしたような農業。
このような、いわゆる多品目栽培は、有機農業ではよくやられている方法なのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。
そして、多くの農家がやってるんだから自分にもできるだろうと、独学で、農家研修で、栽培の基本を学んでから実際に自分でやってみるのですが・・・
このときすでに、じつは大きな間違いをしています。
有機農業が慣行農業の5倍も儲かるって!?
有機農業者は、あまりお金の話をしたがりません。
「収入に魅力を感じて農業をしてるんじゃない。わずらわしい人間関係から解放されて、健康的な暮らしをしたいから有機農業の道を選んだんだ。」
と、収入は二の次だと言います。
だからこそ見えなくなっていた真実。それは、
有機農業はちゃんと稼げる
ということ。家族を養っていくことくらいは簡単に実現できます。しかも、栽培がうまいとかヘタとか関係ありません。誰でも実現できるものです。
ただし、条件があります。
それは・・・