作物の声は聞けたほうがいいのか

ルーサー・バーバンクという人をご存知でしょうか。
アメリカの有名な育種家なんですが、知っている方はあまりおられないと思います。
でも、育種家としては超有名人ですし、エジソンやフォードと並んでアメリカの偉大な発明家と呼ばれたりしているようです。

あ、ちなみに育種家というのは植物の品種を改良する人のことです。
ジャガイモに男爵とかメークインといった品種があるのは、育種家が品種改良を行ったから。
”品種”は作物を育てていく農家として知っていて当たり前のことですから、それを新規開発している育種家にも興味をもつことは大切なことです。
育種家がどういった意図をもってその品種をつくったのか、が分かるとどのように育てたらいいのかが分かってくるからです。
そういう意味で、偉大な育種家であるバーバンク氏の名前はぜひ覚えておいてほしいですし、育種を専門にしている人がいることも忘れないでください。

 

偉大な育種家バーバンク氏が作った品種で有名なものにとげなしサボテンがあります。
とげなしサボテン
(画像参照:多肉ラブ

サボテンはじつは食用になります。
人間が自分たちの食べ物として、牛や馬や豚などの家畜の飼料として利用できる非常にありがたい植物なんですが、その果肉のまわりに覆われているトゲが問題でした。
サボテンしかないような乾燥地帯で、ヒツジが口をトゲだらけにして痛々しくサボテンを食べているのを見て、トゲなしサボテンの育種を決意されたそうです。
ところが何度やってもうまくいかない。
何年たってもトゲがなくならない。
そこでバーバンク氏は
「ここにはお前の怖がるようなものは何もないよ。だからトゲなんか生やして身を守る必要はないのだ。私がお前を守ってやるからね。」
と、声をかけつづけたそうです。
サボテンがトゲを生やすのは、水も栄養もほとんどない砂漠で生き残っていくため、動物たちに食べられないため。
水や栄養が豊富にあって、身の危険がないとわかればサボテンはトゲをなくすはず、と考えたんです。
そして10年。
ようやくサボテンのトゲをなくすことに成功したんです。
というまゆつばな逸話ですが、人の気持ちが植物に通じたといえる貴重な伝説です。

もちろんバーバンク氏は、そのトゲがサボテンにとってどれほど重要なものかを知った上で、それをとりのぞくためには長い年月をかける必要があることをわかっていました。
声かけをしなくても、もしかしたらトゲなしサボテンは出来ていたかもしれません。

じゃあここで。
サボテンの声が聞こえていたらどうだったでしょうか。
サボテンの気持ちが正確に把握できていたとしたら。
バーバンク氏がかけた長い長い年月は必要なかったかもしれません。

 

作物の声を聞けるとなにが起きるのか

野菜の声
もしも、野菜や米や果物の声が聞けたら。
そう考えたくなることは多々あります。
育てているトマトの葉がちょっと黄色くなってきた。
これは栄養が足りないからなのか、それともなにか病気にかかったからなのか。
隣り合うキャベツとの距離は今よりも広いほうがいいのか狭いほうがいいのか。

畑で育てている作物の声を聞けたら、いまなにをしてあげたらいいのか作物自身が教えてくれるし、なにが足りないのかどんなことに困っているのか、作物たちの気持ちを想像しながらあれこれ試行錯誤しなくてもよくなります。
作物がなにを望んでいるのかを観察して、想像して、検証して、という試行錯誤を繰り返しながら経験を積んでいかなくても、かんたんに作物を元気に育てることができます。


って考えてしまいそうですが。
たぶんそんなにうまくいきません。
なぜかって、作物の立場を考えたら簡単です。
作物は収穫されることを前提に育てられているんですよ。
つまり。
傷つけられることを約束されているということ。
自分の葉を切られる、実を取られる、根っこごと地面から引っこ抜かれる。
そんなときに声が聞こえてきたら。
悲鳴が聞こえてきたら。
人間のほうが耐えられませんよ。

だから。
たぶん植物の声は聞こえないくらいがちょうどいい。
その様子を見て、たぶん栄養が足りないんじゃないか、たぶんこれをやってあげたほうが元気に育つんじゃないか、と試行錯誤しているほうがいいんです。
作物の気持ちを想像して、作物をしっかりと観察して、それを栽培に活かしていくことが作物にとってもいいことなんだと思い込むくらいがいいんじゃないでしょうか。

 

人間と作物との奇妙な関係

そして。
作物はなぜ作物なのか。
本質的なところを無視して

「作物の声が聞けたら・・・」

と考えるのはまったく意味がないんです。
そもそも、作物は人間の勝手な都合によって改良させられてきた植物なんですよ。

もともと野生でたくましく生きていた植物を、食べられそうだといってタネをとって畑に播いて育ててみた。
そこで育った植物のなかから、実が大きいものや美味しいもの、病気に強いものを選んでまたタネをとる。
そして畑に播く。
こういうことを繰り返して今の作物の姿が出来上がっているんです。

作物は、人間の都合によって野生から切り離されてしまった植物だということ。
野生に生きていた植物から種をとり、人の都合で品種改良し、食べることを前提に育てて続けてきたということ。
人間は自分勝手な都合で作物を利用しているけれども、作物の立場からみれば人間に身を任せ共存することで生物としての種をつないできたとも言えます。
人間がいなければ今の作物の姿はありませんから。

人間あってこその作物。
勝手な都合で作物を利用している人間。

この関係は絶対に忘れてはいけないと思います。
そして、この関係をしっかりと理解したうえで、作物たちとうまく付き合っていけるようになりたいものです。

 

 

多品目栽培でこんな間違いをしていませんか?

たくさんの種類の野菜を同時に育てる、かんたんに表現すれば家庭菜園を大きくしたような農業。

このような、いわゆる多品目栽培は、有機農業ではよくやられている方法なのでご存じの方もいらっしゃるでしょう。
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